「来て、くれたんだね」 「九条さんからの呼び出しですからね」天はその言葉に眉を顰める。「昔みたいに、“天にぃ”って呼んでくれないの?」 「なんで?もう家族でもなんでもないのに」 「………そうだとしても、僕たちは血の繋がった兄弟だよ」 「繋がってるのは血だけだよ。」 「………」陸が何かを言う度に天の眉の顰め方はひどくなっていく一方だった。それを分かっていながら、陸はあえて突き放した言い方をしたし、天はその陸の言動でさらに眉を顰め方がひどくなっていった。「それよりも九条さん、ここに呼び出したのはなんですか?話ってなんですか?」 「……分かってるでしょ、陸」 「……………」 「どうしてアイドルなんかやってるの」あくまで疑問のように聞いてきているが、目の前の天の顔と合わせれば、これはもう立派な脅迫みたいな物言いだった。「九条さんに会うためだよ?」それでもあえて“九条さん”と呼ぶし、あえて天が怒っていることを陸は知らぬフリで通そうとした。「なら、もう会えたでしょ。IDOLiSH7なんてふざけたアイドル、今すぐに辞めて!」 「目的は九条さんに会うためだけど、俺には別に目標がある。だから、アイドルは辞めない」 「じゃ、その目標ってなに」 「九条さんには教えられないよ。それに九条さんには関係のないことだから」 「チッ…………分かってるでしょ、陸。君にアイドルは無理だ」 「それを決めるのは九条さんじゃないよ」 「言うことを聞いて」 「九条さん、俺は」 「それやめて!」 「え?」 「その“九条さん”呼び、やめて。今さら白々しい。素直に僕のこと“天にぃ”って呼んだら?」 「もう、家族でもない人にそんな呼び方できないよ」 「………」 「最初にそう言ったじゃん」 「僕はやめてって言ってるの」舌打ちするまでに苛立っている天に、これ以上の煽りは何の意味も成さないと陸は理解した。 それでも、“天にぃ”と呼ぶことを躊躇してしまうのはもう他に天には家族がいるからだった。 九条家になった天には妹がいる。それを知ったのは、たまたま見ていたテレビ番組でだ。《家族にありがとう》をテーマにしたドキュメンタリー番組で、それに天は出演していた。『九条さんは家族の誰にありがとうを伝えたいですか?』 『そうですね、妹ですかね。この間、僕のためにクッキーを作ってくれて…』妹……………… それを理解するのに、どれぐらいの時間がいっただろうか。考えてみればそれは当たり前のことで、七瀬を捨て九条になった天には他に家族がいてもおかしくはない話なのだ。 でもそれを考えれば考えていくほど、陸は恐怖に震えるしかなかった。“天にぃ”