決して好きになってはいけない人に、恋をしてしまった。きっかけは本当に単純だった。 眠る前に天にぃが出演する恋愛ドラマを見た影響だろうか。夢に出てきた天にぃが昔のように優しく微笑んで「おいで」と手を差し伸べてくれる。オレが恐る恐るその手を取ると流れるように引き寄せられ、きつく抱き締められた。『りぃく』アイドルとして再会してからこんな風に親しげに触れられたことはなくて、甘やかすように呼ばれたこともなくて。相手は生まれた時からずっと一緒にいた双子のお兄ちゃんだというのにドキドキと胸が高鳴った。 咄嗟に俯きかけた顔を覗き込まれ、顎に触れた指先が目を合わせるように促してくる。視線を上げた先にはビスクドールのように美しい人がいて。『愛してるよ』蜂蜜を溶かしたような甘やかな言葉が優しく鼓膜を揺らした。――たったそれだけの夢。けれど、目が覚めた時に唐突に理解してしまった。今まで気付いていなかっただけでオレが天にぃへと向ける想いがただの兄弟愛ではないのだと。夢の中のように、たった一人の特別として愛されたいと願ってしまったから。こほこほ、と咳込み暗闇の中で身を起こす。またあの夢を見てしまった。初めて見た日から繰り返し見る夢は、オレの心を少しづつ、しかし確実に追い詰めている。ストレスは体に良くないと幼い頃から分かっているはずなのに自分の意思ではどうすることも出来ない。『陸、愛してるよ』言われるはずのない言葉が耳の奥でリフレインする。「はー……はー………」何度か深呼吸して咳が治まると布団ごと膝を抱えそこに額を預けた。埃を吸うからダメだよ、と叱る人はもういない。「……天にぃ……」迷子の子供みたいな声が暗い部屋に溶けて消えた。