「ボクを見て、君が焦がれて追いかけてきたのはボクだ。ボクから視線を逸らそうとしないで、陸。君を大切に、愛していた人はここにいるボクだ」 「……や、めてちょうだい…っ」 「陸、こちらを向いて」 「やめて、ってば……なに、する…」 「君の前にいるのが本当の九条天だ」 「やめて、やめて……辛い、苦しい……っ、もう置いて行かれるのはたくさん」 「夢の中に浸るのはもう終わりにしよう、ボクが君のことをちゃんと見てあげるから」 「……いやだ、いやだ」 しだいに陸の瞳からぼろぼろと涙がこぼれていく。重力に従い留まることを知らずに絶えず、零れていく。陸の口から洩れる言葉を受け止めて、笑顔が歪んでしまいそうになるのを必死に堪え天は陸を見つめ続ける。陸ではない誰かだったそこに、天が求めていた人物の面影が揺らぎ始める。「いやだ……っ、終わりたくない」 「いずれ目を覚まさなきゃ、夢にもいずれ終わりがあるんだよ陸」 「オレを必要としてくれない、天にぃが……」 「ボクだけが君のことを愛してるんだ、そちらではないよ陸」 陸、りく、と繰り返し天が名前を囁く。次第に苦しそうにもがいていた陸はすっかり体から力が抜け落ちたのかただ天を見つめ、静かに涙を流していた。それは舞台の上でただ呆然と観客席を見つめていた陸によく似ていた。「……てん、にぃ」 「そうだよ、ボクだよ陸。もう悪夢は終わりにしよう、かえっておいで」 「……次に、めがさめても……オレのそばにいて」 いなくならないで、と言った陸に天はもちろんだよと額を合わせる。至近距離で揺れるあかく、美しい瞳はそこに確かに九条天をうつしていた。