死とその後の再就職(アンデッド化)が決まっている女吸血鬼も不幸だったが、四人いたビルカインの腹心の中で最も不幸だったのはエルフ出身の貴種吸血鬼だっただろう。「がはっ!?」 細い身体をピートの角で貫かれた吸血鬼が、口から大量の血を吐き出す。「キシャアアアアア!」 だがピートは容赦なく【轟雷】を放つ。吸血鬼の絶叫が響き、肉が焼ける臭いが漂う。「む、むむっ……ムシケラがぁ!」 エルフらしい繊細な美貌を修羅の如く歪めた吸血鬼は、何と鉤爪で自分の両脇腹を切断した。そして胴体の大穴と繋げて自ら上半身と下半身に分かれてピートの角から何とか逃れる。 普通なら自殺行為でしかないが、吸血鬼は空を飛んで空中に留まりながら懐に忍ばせたアイテムポーチから新鮮な生き血が入ったボトルを取り出し、それを一気に飲む。「かはぁっ! 戻れっ!」 そして【業血】スキルで活性化した【高速再生】スキルで上半身と接合するため、【遠隔操作】スキルで下半身を呼び寄せる。 このエルフ出身の吸血鬼は、ビルカインの腹心の中でも多芸である事で知られていた。尤も、ヴァンダルーの仲間達と比べるとその多芸もくすんで見えなくなってしまうが。(何なのだ、こいつ等は!? ぐぅ……早くビルカイン様の元に戻らねば。此処がダンジョンの中なら脱出するにはビルカイン様の影に縋るしかない!) 憔悴を滲ませた吸血鬼が戻って来た下半身を繋げようと急ぐが、彼が操作しているはずの下半身は突如身を翻し、強烈な蹴りを放ってきた。「な、何だと!? これは、私の下半身では無い!?」『ブグルルルル!』 そう、それは吸血鬼の下半身に擬態し、魔術で飛行しているかのように見せていたセイタンブラッドミミックスライムのキュールだった。なら本物の下半身は何処だと、キュールの蹴りを掻い潜りながら探した吸血鬼は愕然とした。「探し物は、これかい?」 緑色の肌をした植物の葉で出来た服を着た女、アイゼンが片手に掴んでいる枯れ技のような物。それは彼女に精気を吸い尽くされた吸血鬼の下半身だった。 キュールを【念動】で運ぶついでに、養分を摂取したようだ。「お、おのれっ! だがこの程度で貴種吸血鬼の中でも上位に位置する私が死ぬと――」 啖呵を切ろうとした吸血鬼の声を、大量の羽音が遮った。ダンジョンに無数にある、モークシーの町の建造物を模して作られた建物の中から、蜂と女性を混ぜたような魔物……ゲヘナビーの兵隊蜂達が次々に現れ飛び上がったのだ。