考え事をしていたら桃香が呆れた様にため息をつく。なんだか姉妹の立場が逆転している…。 そんなに心配をしなくても、篠谷は桃香の攻略キャラだ。出会いイベントのフラグを折ったとはいえ、篠谷が桃香に恋をして、沢渡さわたり程の美少女の存在も目に入らない程一途に執着しているのは変わらないみたいだし、あの粘着質な男の事だから、浮気心を起こす心配もないだろう。「桃香の考え過ぎよ…第一アイツは……あー、えっと…大人しくて背も小柄な子の方が好みよ。多分」 うっかり篠谷は桃香一筋だと言いそうになった。危ない危ない…。桃香はと言えば、篠谷の好みのタイプには全く興味が無いようで、深々と溜息をつかれた。「……そうだといいね。じゃあもう、この件についてはいいや」 とりあえずお説教は終了だろうか。正座を崩してもいいか悩みつつ桃香の顔色を窺う。…ん? 『この件』は…? そう言われて、そう言えばもう一つ、桃香に問い詰められる案件があったのを思い出した。むしろ篠谷の事よりこっちの方が大変だ。「今朝のこと。話してくれる約束だったよね?」 そういや言っちゃったよ。ちゃんと話すって…。緘口令敷かれてるから実はほぼ話せませんって言って通じるかな…。いや、無理か。あんな場面を目撃しておいて、それで引き下がる程うちの妹こ鈍くないわ。 話すって言っても、何処から話せばよいのやら…。桃香に余計な心配をかけたくない一心で去年の事件の時、全力で桃香には隠し通したからなあ。流石に母親には真実を話さざるを得なかったけど、頼みこんで口止めをし、破られた制服はこっそり処分、怪我は絆創膏で覆って、転んだと言い張った。それでも勘の良い桃香はしばらく何があったのかとしつこく問い詰めてきたが、本当に転んだだけで、何もないと言い張っていたら、そのうち言わなくなった。 今更あの時の事から正直に話せば、絶対に怒るだろうし、それ以前に、この件に首を突っ込んでくる可能性が高過ぎる。これ以上生徒会メンバーと桃香が接触する機会を増やすわけにはいかない。「話す、とは確かに言ったけど、全部はだめなの。胡桃澤くるみざわさんたちのプライベートにも深く関わる問題だから。その上で、大まかにで良かったら話すわ」