「あ、あぁ……大丈夫。大丈夫よ」「そんな風にはとても見えないけど。あ! ホットミルク、飲む?」 そう言って、ベッドに掛けていた足を下ろして立ち上がる。急ぎ足でキッチンへと向かう背中は、少し強がっているようにも見えた。「気にしないで。本当に大丈夫だから」「じゃあいいわ! 私が飲みたいから、ついでに作ってあげる。それなら納得?」 ネグリジェを翻すように振り向いたグリンダの表情は明るく、辺りの闇なぞでは太刀打ち出来るものではなかった。キラキラと輝く瞳、豊満な金糸。 まだ意識が鮮明でない状態で見ると、よほど夢物語を覗いているようだった。「もう、あなたってば本当に……。ええ、分かったわ。有難うグリンダ」「ふふっ。”お礼はいいのよ?”」 どこかで聞いたような台詞に控えめなやり方で笑うと、グリンダはやたらと満足気に頷いた。なんでそこまで快活で居られるのだろう。 この子を嫌いだった自分が信じられない。 用意されたホットミルクは甘く、悪夢の苦味をゆるやかに溶かしていった。