51 クマさん、王都へ出発する
昨日は眠かった。
護衛の当日、まずはティルミナさんの家に寄ってフィナを回収する。
それからノアと合流するため領主の館に向かう。
「ユナお姉ちゃん、護衛の仕事ってフォシュローゼ様なんですか?」
フィナが不安そうに聞いてくる。
「そうだけど、言って無かったっけ?」
「聞いてませんよ。そんな、フォシュローゼ様に会うなんて」
フィナは顔色が真っ青になっている。
やっぱり、この世界だと貴族と平民では格差が大きいのかな。
「取って食われたりしないから大丈夫よ。それに護衛対象は娘のノアだから」
「ノアール様ですか。それでも、わたしなんかが」
あれ、わたしが名前、愛称で呼んだのに、ノアールって名前が出てきた。
一応、知られているのかな?
「とにかく行くわよ。駄目なら、断ってくるでしょう」
「わ、わかりました」
フィナは渋々と付いてくる。
領主の館に行くと、すでにノアが腰に手を当てて門の前で仁王立ちをしている。
「遅いです。ユナさん」
「そう思うなら、家の中で待っていればいいじゃない」
「そ、それは、わたしがクマさんと旅が出来ると思うと我慢が出来なかったからです」
恥ずかしそうに言う。
「理由は分かったけど、ひとつ良い?」
「なんですか」
「この子も連れて行くけど問題はないよね」
隣でビクビクしているフィナを指す。
「その子は誰ですか?」
「わたしの命の恩人の……」
「ち、違います。わたしがユナお姉ちゃんに命を救ってもらったんです」
「それで、その子を一緒に連れて行くの?」
「一応、許可をもらいにね」
「別にいいよ。ただし、クマさんは譲りませんよ」
バッシと指を突きつける。
「クマには2人で乗ってもらいます」
「仕方ありません。でも、前は譲りません」
「クリフに挨拶は必要?」
「大丈夫です。お父様にはユナさんが来しだい、出発していいと許可をもらってます」
「それじゃ、許可も出たし王都に行きましょうか」
3人で門に向かい、外に出る。
くまゆるとくまきゅうを召喚する。
今日はわたしはくまきゅうに乗る。
2人にはくまゆるに乗ってもらう。
「先ほどに言いましたけど、わたしが前ですよ」
「はい。ノアール様」
「そう言えばあなた、名前は?」
「はい、フィナと申します」
「それじゃ、王都までよろしくね。フィナ」
「はい、よろしくお願いします。ノアール様」
くまゆるの前にはノアが乗り、後ろにフィナが乗る。
わたしはくまきゅうに乗る。
「それじゃ、王都に向かって出発!」
今回は慌てることはない旅なのでゆっくりと王都に向かう。
「うふふ、くまゆる~、王都までよろしくね」
ノアはくまゆるを優しく撫でている。
「ノアール様はくまゆるとくまきゅうを知っているのですか?」
「ええ、一度だけ乗せてもらいました。そのあとは一緒に昼寝もしました。もう、昨日から今日が楽しみで仕方なかったわ」
2人は仲良く会話をしている。
「それで先ほどもお聞きしましたが、お二人はどのような関係なんです?」
「わたしが初めてこの街に来たとき、森で迷子になったのを助けてくれたのがフィナだったのよ」
「そうですけど。わたしが森でウルフに襲われているのをユナお姉ちゃんが助けてくれたんです。わたしは街に案内しただけです」
「それから、わたしが冒険者になって、魔物の解体が出来ないからフィナにお願いすることになったよね」
「はい。お給金も貰えて感謝です」
「フィナ。あなた、魔物の解体出来るの?」
「はい。昔からギルドでやってましたから」
「昔からって、あなた今何歳なの?」
「10歳です」
「わたしと同じじゃない。それで魔物の解体を・・・・」
ノアは驚く。
やっぱり、この世界でも10歳の子供が解体するのおかしいよね。
それから、2人はくまゆるの上で仲良くお互いのことを話し合ってる。
仲良しなのはいいことだ。
2人の会話は弾んでいる。
同い年なら貴族と平民とは関係無く、仲良くして欲しいものだ。
そんな中、クマはのんびりと王都までの道を進んでいく。
魔物や盗賊に遭うことも無く、のんびり旅も夕暮れになる。
王都に続く道はまだまだ続いている。
野宿に最適な場所を探しながら辺りを見渡す。
2人を連れて少し、街道から離れる。
「ここの辺でいいかな」
この辺で野宿の準備をするためクマたちを止める。
「ユナさん。もしかして、ここで野宿するのですか?」
「そうよ。もしかして、宿に泊まれると思った?」
「思いませんけど、いつもは馬車の中で寝てましたから」
なるほど、移動は馬車だからその中で寝泊りしていたわけか。
「何もない場所で寝るのは初めてだから」
「安心していいよ。寝る場所はちゃんとあるから」
「…………?」
二人に少し離れるように言って、クマボックスからクマハウスを取り出す。
見た目は相変わらずのクマさん。
でも、大きさはお出かけ仕様。
大きさは街にあるクマハウスの半分ほどになる。
あまり、大きいと目立つと思ってこの大きさにしたけど、平原にあると十分に目立つ大きさだ。
「ユナさん?これは」
「クマの家よ。お出かけ用だから、少し小さいけど」
「名前を聞いているんじゃなくて、どこから現れたのかなと思って。ううん、現れた場所は分かっているけど、アイテム袋に入るものなんですか?」
「入るね。どのくらいの大きさの物が入るか分からないけど」
「そうなんですか。でも、フィナは驚いてないのね」
「わたし、クマさんの家が出てくるのは一度見てます。あと、ブラックバイパーの魔物が出てくるのも見てますから」
「あと、このことは内緒だから、誰にも話さないでね」
ノアに注意しておく。
「それじゃ、中に入りましょう。一日中移動して疲れたでしょう」
くまゆるとくまきゅうは戻し、家の中に入る。
「ああ、ノア悪いけど靴はここで脱いでね」
この世界では基本的に靴を脱ぐのは中級家庭以上になるらしい。
ノアの館でも靴を脱ぎ、スリッパみたいな物を履く。
ただ、フィナが住んでいたような、下級市民が住む家は床が汚いので靴を履いたまま家の中に入る。
宿も基本的に靴を履いたまま部屋に入るようになっている。
家の中に入るとノアが驚きの声を上げる。
「何ですか、この家は?」
靴を脱いで部屋にあがると、居間兼食堂になっている。
部屋の中は魔石の光によって明るく照らされている。
食堂の広さは一応、10人ぐらいまで入れるようになっている。
「まあ、適当に椅子に座って休んで、夕飯の用意するから」
キッチンに向かい、フライパンに油を引いて、ひき肉や卵を用意してハンバーグを作る。
それと同時進行にサラダも作る。野菜も大事だからね。
ハンバーグが焼けた頃に、宿で作ってもらったスープを皿に分け、作りたてのパンを皿に乗せる。
最後にコップに果汁を注いで終了。
出来上がった料理をテーブルに運んであとは食べるだけ。
「ユナさんこれは」
「夕飯よ。もし、お屋敷のような料理を望んでいるようだったら無理だよ」
「いえ、そんなことを思っているわけじゃありませんが、逆に家の料理よりも美味しそうな匂いがするんですけど」
「そう、なら良かったわ。温かいうちに食べましょう」
ノア、フィナの二人は食べ始める。
「なんですか。この美味しい食べ物は」
「ハンバーグだけど」
「はんばーぐ?」
「そうだけど、この国じゃ食べないの?」
「食べないのと仰られても、初めて食べました」
「そうなの、ウルフの肉やオークの肉を細かくするだけなんだけどね」
「ユナお姉ちゃん、わたしのうちでも作れますか?」
「作れるけど、ソースを作るのが難しいかも、大根おろしも美味しいけど」
「今度、教えてください。家族にみんなに食べさせたいので」
「いいけど」
「わたしも」
「ノアは必要ないでしょう。貴族様なんだから」
「そうですけど、なんか、のけ者にされている感じがするので嫌です」
「とりあえず、教えるにしても街に帰ってからね」
「このスープも美味しいです」
「それは宿で作ってもらった物よ」
「このパンは?」
「美味しいパン屋を見つけたから買い占めた」
そんなこんなで会話をしながら食事が終わる。
「それじゃ、食後休んだら、お風呂に入って、日の出と同時に出発するから、早く寝るのよ」
「はい、わかりました」
「そんなに早く出るんですか?」
仕事のために早起きのフィナ。
貴族様でのんびり朝を迎えるノア。
2人の反応は見事に分かれた。
「この家を他の人に見られたくないからね。夜なら、他の旅の人も寝ているだろうし朝なら動き出す。だから、わたしたちも動くのよ」
「わかったけど。あと、聞き間違いがなければお風呂って聞こえたんだけど」
「聞き間違いじゃないよ。お風呂はあるから。くまゆるに乗っていただけでも、汗はかくでしょう。綺麗にして温かくして寝なさい。お風呂の使い方はフィナ、教えてあげて」
「わたしの常識が崩れていきます」
そんなノアをフィナはお風呂に連れて行く。
わたしは食後の後片付けをする。
お皿を洗うだけだけど。
二人が出てくると、ドライヤーを貸して、髪を乾かすように言う。
わたしも風呂に入る。
風呂から出てくると、二人が待っていた。
「寝ていないの?」
「どこで?」
ああ、部屋割りをしていなかった。
1階には食堂兼居間、キッチン、トイレ、お風呂がある。
2階には小さな部屋が三部屋ある。
1つは自分の部屋。
残りの2つがお客様用になっている。
お客様用の部屋には二段ベッドが二つある。
各部屋には四人ずつ眠れるようになっている。
2人に部屋を見せて、
「どうする?」
と聞いてみる。
「わたしはどちらでも、ノアール様にお任せします」
「寝る前におしゃべりもしたいし、一緒に寝ようか」
「はい」
「でも、早く寝るのよ」
注意をして二人と分かれ、自分の部屋に向かう。