「……ちゃんと、覚えてる?」 「な……に、」 「陸の此処を、…ボクが噛んだ時の事」 「ぅあ…っ!」 「此処」…と言いながら陸のうなじに手を回せば、小さな痛みからか…、それともそれ以外の何かのせいか、びくりと大きく陸の肩が跳ねた。 こんな時でも、陸の瞳は言葉以上に雄弁に感情を語る。きっと陸は…、きちんと全てを覚えているのだろう。 「これで…ボクと陸は【番】になれたんだよ…」 「つ…が、い…」 「そう…。これで陸は…、もうボク以外と【番】になれない」 陸は…ボクだけのΩになったんだよと紡いで、優しく目元を綻ばせれば、陸の唇が声にならない声で「なんで」と呟く。 その「なんで」に返してあげられる言葉は、ひとつだけある。 でもそれを…、ボクは今この場で陸に伝えることが出来ない。 なんでこんなことをしたのか。なんで自分なのか。なんで…、なんで… (それは…、ボクが君のことを、本気で…「好き」だからだよ…。陸…)