──と思ったら。「……緑川、くん……ありがとう」「あ、す、すいませ! ……へっ?」「琴音がどうしようもない屈辱にさらされたときに、いっしょに泣いてくれて、本当にありがとう」 てっきり怒られるかと思っていた俺は、間抜けな声を出してしまった。 初音さんはそんなこと気にも留めちゃいないようだけど──なんでお礼を言われるんだろ。「いやいやいや、どちらかというとお礼を言いたいのはこっちの方で。琴音ちゃんがいなかったら、ひょっとすると俺はこの世にいなかったかもしれないですし」 初音さんの表情が柔らかく変化したので、少し大げさに返してみるテスト。 ま、あながち冗談ではないけどな。人を呪わば穴二つ。『あながち』を使って短文を作りなさい、という楽しい国語レベルの命題が脳裏に浮かんだわ。 池谷サオで穴に埋められて、裏切られたら奴らを穴に埋める。いやそれ、あながちがうよぉ。