四宮は工具を片付けていた。既に昼休憩の時間だったが先程離陸した機体の飛行前点検に大分手間取ってしまったので後輩達を先に昼休みに行かせたのだ。「シノちゃん」背後から呼ばれて振り向けば怜二が立っていた。「怜二……。どうしたんだ?こんなところに」工具や資材を置いてあるこの倉庫は整備士以外の職員が立ち入ることはほとんどない。「会いにきたんだよ。寮までいきなり押し掛けたら悪いと思って」「あ、ああ」なんだか自分が悪いような気がして四宮はうまく怜二と視線を合わせられなかった。「連絡先教えてほしいな」怜二はごく自然な感じでそう切り出した。「その、この前のことは忘れたいんだ」「どうして?」「お互いすごく酔ってただろ。でなきゃあんなこと……」あの日、根古と緋夏と食事に行った店で偶然怜二と出会い初対面なのに意気投合した。ホテル暮らしで寂しいと漏らす怜二をそれなら寮に来いと誘ってしまった自分も今思えば寂しかったのか酔っていたのか。リビングで二人で楽しく飲んですっかり怜二が出来上がったところに、春田と成瀬が帰宅して酔いざましにテラスに運んでくれたところまでは良かったのだ。春田と成瀬の二人に顔を合わせるのが気まずくて四宮は自分の部屋にひっこんだ。そうしてベッドでうとうとしかけた頃ドアの開く音がして誰かが部屋に入ってきたのだ。こんな時間に誰だと思っていると足音はベッドまで近づいてきてマットレスの上に座った。ふわりと優しく髪を撫でられる感触がした。「春田?」そんなはずはないのに思わず名前を呼んでしまった。「残念。怜二でしたー」慌ててベッドから体を起こした。「ひどいよ。シノちゃん。俺ひとりにするなんて」「ごめん。春田たちが付き添ってたから大丈夫かと思って」「いいよ。春っぴにシノちゃんの部屋聞いたら教えてくれたから来ちゃった」怜二は無邪気にそう言う。「ああ。えっと、タクシー呼ぶよ」「シノちゃん。泊まっちゃダメ?」「寮生以外宿泊禁止だから」「俺社員なのにダメなの?」「うん」「寂しい」まだ酔っているのかそう言って怜二が抱きついてくる。良い年齢の大人なのに天性のものなのかその行動はどこか子供みたいでなんだか突き放せなかった。本当はダメだけれど社員だし執行役員である。一泊ぐらいは多目に見てもらえるだろう。それにこんな状態の怜二をひとりで返すのもなんだか不憫だった。「じゃあ俺のベッドでいいなら半分貸すから」「本当に?シノちゃん優しい」そう言って怜二はベッドに入ってくる。「靴下と服は脱いでくれ。寝間着になるもの出すから」「あ、俺寝るときは裸なの。お気遣いなく」そう言って着ているものを脱ぎ出した。「え。いやパンツは履いててくれよ」思わずそう言ったら怜二はケラケラと笑った。「シノちゃんも脱いだら?気持ちいいよ」「何言ってるんだよ。パンツ履かないならベッドから追い出すぞ」「はあい」そう言うと怜二はそれ以上は脱がずにベッドの中に入ってきたので四宮も追い出すことはしなかった。「ねえ。さっき春田かって言ったよね?春っぴシノちゃんの部屋に来ることあるの?」急に春田の名前を出されてどきりとする。思わず名前を呼んでしまったのは願望みたいなものだった。「ああ。たまに」「春っぴとも一緒に寝てるの?」「そんなことあるわけないだろ」少し語気が強まってしまったが怜二は気にした様子はなかった。「今日店で最初会ったとき失恋の話してたでしょ?だからもしかして相手春っぴだったのかと思って」急に核心をつかれる話題を出されてすっかり油断していた四宮は言葉をなくした。と同時に成瀬と一緒に帰宅した春田のことも思い出していた。「ごめん。当たっちゃった?」怜二に言われてなんだかもう隠しているのも意味のないことに思えた。「そうだよ。春田に振られた」「そっかあ。俺も失恋したんだ」怜二がそう言って四宮は思わず怜二の顔を凝視した。「お前が失恋?」「うん。振られちゃった。すごく好きだったんだけどね。それでドバイから日本に戻ってきたんだ」「そうだったのか」「失恋っていくつになっても堪えるよね」「そうだな」それまで至近距離で四宮の顔を見ていた怜二が急にもぞもぞとし始めて四宮に背中を向けた。「どうした?」「ごめん。なんだか誰かと一緒にベッドの久しぶりだし、シノちゃん良い匂いするから」「え?」意味が分からず疑問符を投げる。「ごめん、本当にごめん。すぐおさまるから」その言葉でようやく状況を察した。「それって俺で反応したの?」「まあ。シノちゃん俺の好みだし。本当にごめんなさい」もし怜二が迫ってきていたら絶対にベッドから蹴りだしていたと思う。でも背中を丸めて体を宥めようとしている姿を見たらなんだか放っておけなくなったのだ。「俺でよかったらしようか」「え?」怜二が振りかえって四宮を見つめた。「あ、いや。俺みたいなおっさんじゃ嫌だよな。ごめん。忘れて」「嫌じゃないよ。本当にいいの?」大きく目を見開いて怜二が聞く。「いいよ」そう答えると怜二は起き上がって四宮の上に馬乗りになった。抱え込むように抱き締められて丁寧な愛撫を施されて挿入された。四宮も怜二の背中を抱き返した。大人の合意の上の行為で誘ったのは自分だ。なんであんなことをしてしまったのか。後悔ばかりだった。「俺は酔ってなかったよ」怜二が言って四宮は回想から現実に引き戻された。「いや、酔ってただろ」「酔ったふりしてただけ。シノちゃんとお近づきになりたかったから」「それこそ嘘だろ」「俺歳上の美人が好みなの。そんで奥ゆかしいタイプ。シノちゃんドンピシャだった」「なんだよ、それ。大体俺のこと知らないだろ」「一目惚れみたいなものだったけど。あなたのことは知ってたよ」「なんで?」「俺CAとして入ったときに皆の仕事ぶりを見てたんだ。あなたがそのつなぎ姿で働いてるところ見ていいなって思った。噂話も聞いたけど、あなたのこと皆信頼してたよ」耳に心地よい言葉だけれど四宮はそれを信じる程純粋でもお人好しでもなかった。「ねえ。俺本気だから。一夜の過ちのつもりはないよ」「ムリだよ。俺は」すっと音もなく玲二が距離を詰めた。背中に手をまわされてそのまま唇が触れた。柔らかい感触はこの前の夜と同じだった。密着するように抱き締められてそのまま舌先が触れる。強引さを感じさせないくらい自然で心地よい口づけに四宮はうっかり身を任せそうになる。この男はたちが悪い。人の弱った心にするりと入ってくるのだ。「ダメだ」押し返そうとしたがその腕ごと抱き締められる。唇を挟むように緩く甘噛され舌で唇の粘膜を撫でられると陶然とした心地になる。玲二の手が四宮の腰のあたりをまさぐって、ウエストで巻いていたつなぎの緩める。そのまま直に指先が肌に触れる。下着の中に入ってきた手が四宮の引き締まった臀部に触れる。ダメだと思っているのに抗えず四宮はそのまま玲二の腕の中にいた。胸をぴったりと合わせるように引き寄せられて体の中心が生地ごしに擦れあい嫌が応にも体が昂っていく。ヒヤリとした硬い感触に身をすくませたのはその瞬間だった。「ごめんね。動かないで」「なんだ。これ?」尻の狭間にある冷たい異物に気づいて言った。「ご褒美だよ。気に入ってくれるといいな。ちょっと力抜いてね」怜二はそう言って指先に力をこめた。「ひゃっ。何だよこれっ!」「ローター」