ざわざわと彼女の事を知っている者達が、思わずざわめく。共同神殿で定期的に説法を行い、歓楽街のヴィダ通りでは売り子をしていて、更にあのヴァンダルーの母である彼女も有名人だった。「ダルシア殿ではないか。あなたは冒険者ではないのだから、ここで命を賭けなくとも……」「いいえ、この町には大勢の友人がいますし、息子もまだ戻って来ませんから。それに、これでも故郷では魔物退治は得意な方だったんです。 彼女達も力を貸してくれますから」「私達はヴァンの従魔だからな」「まあ、そのテイマー本人は居ないが……問題無いじゃろう。ここは町の外じゃし」 そう口々に言う彼女達の手には、今まで見せた事のない杖や斧が握られている。「それに領主様、それほど絶望的な戦いにはならないかも知れませんよ」 そう言われてアイザックが改めて魔物の群れを見ると、町に向かってくるドラゴンの数がだいぶ減っていた。一部、何故か草原の方に向かっているドラゴンもいるので油断はできないが……それでも一度に相手にするドラゴンの数が減るだけでも、吉報である。「これは……やれるかもしれん。ダルシア殿、ところで、ご子息が戻って来ないとは一体? それに『飢狼』は?」 一部にはB級冒険者並の実力を持つと見抜かれている『飢狼』のマイケルは、大きな戦力になる。そして基本的にはテイマーとしての実力しか知られていないが、得体の知れない部分があるヴァンダルーにも、伯爵は期待していた。「お館様、流石にそれは……」 十歳少々の少年にまで頼るのはどうかと、騎士の一人が諌める。彼のように思う者もいるが、従魔はテイマーの指揮がなければ本領を発揮できないというのが一般的な常識だし、状況はひっ迫している。伯爵の言葉に違和感を覚える者は少なかった。「ええっと、マイケルさんはちょっと所用で……息子は友人と草原に残っています」「な、なんとっ! それは……まさか、ドラゴンやジャイアントの一部が草原に向かい、同士討ちを始めたのは彼のお蔭なのか!?」「はい、多分、竜種や巨人を混乱させる毒の調合をあの子は知っていますから。あの子は昔から錬金術が得意ですから」 ダルシアが言った嘘に、そうだったのかと後ろで控えているサイモンが目を見張り、ナターニャがすっと顔を逸らす。「そんな毒があるのですか!? しかも、空を飛ぶドラゴンや巨人に盛る事が出来るとは……!」 そして同じく驚愕に目を見開く魔術師ギルドのマスター。彼は、ヴァンダルーがサイモンやナターニャにしたように義肢を安価で配り、マジックアイテムの義肢の価値が下がってしまうのではないかと危惧し、組織的に圧力をかけようとしている張本人である。