僕を呼ぶ声がして振り返ると同時にウエストあたりにポスンと軽い衝撃。気付けばアメリカにいるはずの理がそこにいた。理を反射的に受け止めたけど名前を呼ばれた瞬間に感じた違和感は何なのだろう。理の声と一緒にもう一人の声が聞こえた気がした。本当に微かだけど。あの子の声がしたような気がした。僕のこと天にぃ・・・って・・あの名前で呼ぶのは陸だけ。でも気のせいかもしれない。ここは今関係者以外立ち入り禁止になっているはず。陸がここにいるはずがない。はやる気持ちがまた幻聴のような現象を起こしたのかもしれないと思考を隅に追いやって久しぶりに会った妹に声をかけた。「理?どうしてここに・・・?」「九条さんが日本に用事があるから一時帰国するということで 私も帰ってきたんです。それで天お兄ちゃんのライブがあると聞いて見にきました。」理が帰ってきているのなら九条さんも一緒なのは当然だ。でも今回の帰国に関して事前連絡を僕は何もうけていない。いつもはいつ帰るからと事前に連絡をくれるのに何故こんな急に?とどうしても何かが引っかかった。理にさらに詳しく状況を聞こうとした矢先、慌てた様子で楽が駆け寄ってきて僕の背後を指さしながら何やら早口に告げてきた。「おい!あれってお前の!!」その焦りを含んだ表情に僕はすぐ楽が指差す方向へと顔を向けた。そこには、九条さん・・・と・・・・・・・・・顔面蒼白になってる陸がいた。「ぇ・・・・・・・りく・・・・・・???」あまりに唐突で一瞬思考回路が止まった。僕の様子に呼応するかのように理が僕にさらにギュっと抱き着いてくる。その感覚に今の自分の態勢を思い起こし一瞬にして意識を呼び戻した。(違う・・・これは・・・違うよ陸・・・お願いだからそんな そんな泣きそうな顔しないで)理と僕の姿に明らかに傷ついた表情を浮かべてこちらを見つめてる陸。この光景を見てあの子がどう思うかなんて容易に想像がついて胸が軋む。早く、早く誤解を解かなければ。「陸っ!!!!!!」無我夢中で名前を呼び、駆け寄ろうと前に体重をかける。でも進行方向とは逆方向にかかる力に阻まれた。下を向けば理が僕のことをいかせまいとして踏ん張っていた。「理。離して。今すぐ!お願いだから!!」必死に理を離そうとする。早くしないと陸は・・・あの子は絶対この光景を見てきっと嫌な想像しかしていない。あの表情を見れば何より明白だ。そしてそれは心的負担となって発作を引き起こしかねない。「ごめんなさい。でもダメなの。ここで天お兄ちゃんを行かせてはダメだって九条さんが・・・っ・・。」理が涙を浮かべながら縋りついてくる。この子の行動の全てはきっと九条さんの指示によるもの。ここに陸を連れてきたのもきっとあの人。全て仕組まれたこと。「っ!!理。良く聞いて。あの人は君が思ってるような人じゃない!」出会って間もない頃、理は九条さんのことを自分を施設や借金から救ってくれた人であると、心から慕っている、感謝していると嬉しそうな顔をして僕に打ち明けてくれたことがあった。僕よりもずっと幼く過酷な環境で生きてきた理にとって九条さんは絶対的な存在なんだと思う。けど今回のこの一件で僕の中に燻ってた疑念が一気に確信へと変わった。「あの人は自分の理想のためなら手段を選ばない人だ。なんでも利用して用済みとなったら切り捨てていく。所詮僕らは彼の理想を叶えるための手駒にすぎない。理。そんな人についていってはダメだ。お願いだから離し・っ・・。」離してと言おうとた瞬間背後に人の気配を感じ肩を叩かれた。誰?!と思って振り返れば九条さんがすぐそばにいた。