作品のタイトルの一部である『繋ぐ』と言う言葉の主語は、この作品では1か所の例外を除いて、すべて「世界を」なのです。
ただ1か所の例外というのが、隆が主治医として語った「あの時『命を』繋ごうと必死だった」という言葉。
たしかに隆は主治医として全力を尽くしたし、正平もそれを責めてはいない。けれど、抗がん剤と放射線治療の副作用で苦しむ妻に、何もしてやれなかった自分は悪かったと責めている。
弟曰く「いつもは他人のせいばかりにしているのに」。
愛する妻に、妻の思うようにしてあげられれば、結果は同じであっても、妻は幸せだったろうと。
だからこそ、同じ場面が自分の目の前に現れたときに、愛する女性である柚子に対して、柚子の思うようにしてあげたいと願い、隆も承知してくれたことで、かつての「妻へしてやれなかったこと」へ一つの区切りがつけられた。