『ミセリア・ブレウィス――』『もし、この私と……“友達”で在りたいのなら……』 ――どこにも人影のない、静やかな校舎の裏手。 かつて私はこの場所で、彼女と戦ったものだ。それは一方的な結果ではあったが、私にとっては価値のある出来事だった。 自分に向けられた脅威。その愉たのしさを知り、より武への執着想いを募らせる契機になった。 私は感謝していた。彼女に。 “友達”となることにも、そこまでの拒否感はなかった。自分の本性を曝け出せる相手。それは日常を過ごすうえでも、非常に大事な存在だった。 それでも―― ただ、一つの条件を。ある時から、私は彼女に課していた。「……来たわね」 私はニィっと笑うと、ゆっくりと壁から背を離した。そして手袋を外してポケットにしまい、あらわになった素手を拳にして強く握る。どこかワクワクした気持ちを抱きながら、私は友人の姿を捉えた。 ――眼鏡の少女は、その手に指揮棒型の杖を携えている。 そして、それ以外の荷物は持っていなかった。これから“やること”に邪魔なものは必要ないので当然である。 ミセリアは淡々と、物怖じする様子もなく、無感情に歩み寄ってきた。その姿が、私には嬉しく感じる。――強者に立ち向かってくる人間ほど、素晴らしいものはないのだから。 彼女が、私と、関係を維持するための条件。 そう、知己でありつづけることを望むのならば――『月に一度――私を殺しにかかってきなさい』 命を狙えッ! 生を脅かせッ! 息の根を止めるつもりで襲えッ! それが――ミセリア・ブレウィスに求めた約束であった。 退屈な日常に馴染んでしまわないように。殺意の感覚を忘れてしまわないように。 ミセリアに脅威を向けてもらう――それは私にとって重要なことだった。 むろん、結果は見えているが―― それでも彼女に全力で襲い掛かられると、心と体の鈍りも抑えられるのだ。 夢の中ではなく、現実の中でも死が訪れる可能性があると――そう安心できる。 そう――これは月に一度の、“お楽しみ”だった。「――――」