鬼人族であるスズメのことも気にかかる。ルナマリアとシールに目を離さないように頼んできたから心配ないとは思うが、そのルナマリアとシールも問題ありといえば問題ありなのだ。 奴隷の首輪をつけたエルフ(美女)と獣人(美少女)とか、ある意味スズメと同じくらいに目立つ。絡んでくるおバカもいるだろうし、妙な騒動に巻き込まれていないとも限らない。 そういう意味でいえば、今回のメルテ行きはかなり無理をした結果だった。 それを口にすれば恩着せがましくなってしまうから、なるべく短い言葉で説明したのだが、セーラ司祭は感じるものがあったようだ。 深々と頭を下げて礼を言われてしまった。「本当にありがとうございました。重ねてお礼を申し上げます」「いえいえ、お気になさらず。困ったときはお互いさまです」 せいぜい好青年に見えるように柔らかい笑顔をつくる――ちゃんと好青年に見えているだろうか。未亡人と幼子たちをだます詐欺師に見えていないといいのだけれど。 そんなことを考えて、ふと気づく。そういえば、さっきからずいぶんと子供たちが静かだな。 そう思って三人組を見れば、眠そうにしきりに目をこすっていた。普段であればとうに寝ている時間だから無理もない。 チビガキ一号ことアインは大きくあくびをし、年下二人はこくりこくりと船を漕いでいる。 そんな子供たちにセーラ司祭が声をかけた。「アイン。ツヴァイとドーラを部屋まで連れていってあげてください」「……ふぁーい」 目をこすりながらうなずくアイン。ツヴァイはアインの右手を、ドーラはアインの左手を、それぞれ握り締める。 村に戻っていく三人の背を見ながら思う。 うん、アインは良いお兄ちゃんだな。 俺とラグナにもあんな風に手をつないで歩いた時代があったはずなのだが、記憶はすでにおぼろである。 あれはいつの頃だったか。たしか母さんとラグナの母親もいたはずだから、七歳よりも前であるのは間違いないのだが。 時ならぬ物思いにふけっていると、不意に横合いから視線を感じた。 振り返ると、そこには子供たちについていくと思われていたセーラ司祭が、じっと俺を見つめていた。 こちらを思いやり、気遣う優しい眼差し。言葉にせずとも、今しがた俺の胸をよぎった寂寥せきりょうを感じ取ったのだろうか。 その視線がむしょうに気恥ずかしくなって、俺は視線をあさっての方角に向けた。