「だからオレは、オレの残りの人生すべてをかけて、みんなと歌っていたいんだ」 そこに笑顔の仮面はない。 どこまでも真摯。 過去も、 今も、 未来をも真っ直ぐに見据えて、陸は告げる。「それが、あなたにとっての『アイドル』なのですね」 今まで静観していたナギが、見定めるような眼で言う。 陸はその眼に気恥ずかしさを覚え、途端に伏し目がちに頬をかく。 「……自分勝手、すぎるかな」 「いいえ。いいえ、リク。自分勝手などではありません」ナギは力強く頭を振る。「あなたの歌には、人を惹きつける力がある。歌だけではありません。あなたの仕草、言動のすべてに、人は惹きつけられるのです。それは、あなたの歌が上手いからでも、センターだからでもありません」 ナギは語る。 大好きなアニメのキャラクターを語る子供のように眼を輝かせて。 ナギは語る。 大切な友人ハルキのことを語るときのように信愛の情を込めて。「あなたのその生き様に、私たちは魅せられているのですよ」「ナギ……」 「あなたもそうでしょう、イオリ?」 「……私は……」 急に話を振られる一織は、しかしナギとも陸とも目を合わせられず、下を向く。 隣に並ぶ三月が心配そうに見守るなか、陸はそっと微笑んだ。 息を吸い込んで口ずさむ。 Memory Melody の一節。 陸のソロから始まるCパートだった。「生まれた意味を声に乗せるよ」 薬の影響からかいつもよりも枯れていた。 けれども、それでもしっかりと。「感じてTo your heat」 一音一音を大切に紡がれる歌声は、確かに七瀬陸にしか出せない音だった。「……あははっ、酷い声だね」陸は自嘲する。 「……まったくです。全快には程遠い……早く、治してください」そうぶっきらぼうに言う一織は、顔を赤くし、目には溢れんばかりの涙がたまっていた。