声に反応するように、真っ先に反応があったのは、男だった。男はふらふら立ち上がる。 その手にしている刃物が血に濡れてにぶく光っているのが、天たちの目にはっきりと映った。陸はかすかに身を起こして、横たわったスタッフを呆然と見おろしていた。 そして震える体でスタッフの腹にすがり付いて、なんとか溢れる血を止めようと、スタッフの傷付いた体に両手を必死に押し付けている。その横顔は、蒼白だった。震える声で呟いている。 「ど、どうしよう…大丈夫、しっかりしてください…きゅうきゅうしゃ…」男がゆらりと陸の背後に立った。「リク!」大和が危険を伝えようと叫んでいるが、遅かった。男は背後からぐっと陸の首に腕を回して、強引に負傷したスタッフから陸を引き剥がす。突然の圧迫に、陸が呻いた。 「ううっ!」「なんで!そんな男を庇うんだ!私だけ見ていればいいのに!」男は耳障りな甲高い声で叫びながら、ずるずると陸を背後から引きずって、血を流すスタッフから引き離していく。首に腕が回されていて陸が苦しそうに喘いで体が当り、キッチンの上に用意されていた調味料や野菜等が床に乱雑に落ちた。陸を床へ引き倒して、男は馬乗りになる。「…こんなに、毎日陸くんのこと思ってるのに、わかってくれないよね、そんなのって、ひどいよね…」 「わ、わかった、わかりました…だから、救急車を、」 「わかってないよ!!!」ばしっと、陸の頬を手で打った。 「うっ!」陸が顔を歪めて、腕で頭を庇おうとする。しかしその腕を掴んで床に乱暴に押し付けられてしまった。天から見ると、陸の呼吸が不規則に乱れていて、それが発作の予兆のように思えて…それが、本当に怖かった。 お願いだから、もうこれ以上、乱暴しないで……男も陸が怯えていることに気づいたのか、急に猫なで声に変えて陸へ微笑みかける。「陸くん、ごめんね、痛かったよね、でも陸くんが悪いんだよ?私にこんなことをさせたのは、ぜんぶ陸くんのせいなんだから…でも、ああ…陸くんがここにいる……」男が刃物を手に持ったまま指を伸ばして、その指先で陸の頬をつうっとなぞる。 陸は怯えて天たちや倒れたスタッフへと視線をさ迷わせている。「私だけ見ろって言っただろ!!!