「ユランっ!今からお昼なの?」「うん、ちょっと手伝いで時間とっちゃって……ここ大丈夫?」「私はいいけれど……」 立ち上がろうとしたヴィオレットを制しながら、片手で持ったトレーを置いても良いかと空きの多い席を見る。一人で座るにも、三人で座るにも広い。さらに人が増えたとて窮屈に感じる事はないだろう。 仮にヴィオレットだけだったなら、なんの迷いもなく頷いていた。 ユランとお昼を共にするのはいつもの事といって良いくらい馴染んだものだから。 でも今、この席にいるのはヴィオレットだけではない。 チラリと視線を向けた先には、固い表情のクローディアと苦笑いを浮かべたミラニアで。歯切れの悪いヴィオレットに、何を言いたいのか皆まで言わずとも伝わったらしい。 二人に視線をやって、閉ざした口を開く時には人好きする笑みが貼り付いていた。「お二人とも、相席してもよろしいですか?」「あ、うん……俺は構わないよ」「……問題ない」「ありがとうございます」 声が弾んで聞こえたのは、事実機嫌が良かったからだろうか。ヴィオレットには少々わざとらしく聞こえたのだが、自分といる時のユランは大体こんな感じだった気もしたので気にするのを止めた。 当たり前の様にヴィオレットの隣を陣取って、体格にあったユランの昼食と並べば、ヴィオレットの食事量がより少なく見えてしまう。「ヴィオちゃん、またサンドイッチだけ?ちゃんと食べなきゃ体力持たないよー」「ユランとは性別も体格も違うからそう見えるだけよ。野菜はちゃんととってるし、栄養面では問題ないわ」「それ、マリンさんがいるから何とかなってるだけだよね」「…………」「はい図星ー」 仕方ないなぁと最後にはヴィオレットの意思を尊重してしまうのだから、結局ユランはヴィオレットに甘い。 目の前で繰り広げられる気安いやり取りは、普段かヴィオレットにもユランにも複雑な感情を抱いているクローディア達には衝撃だが、ヴィオレットはそんな事気が付いていないしユランは分かった上で興味がない。 元々注目を集めていた一帯だが、ユランが投入された事でさらに好奇の視線が集中している。そちらも気付いているのはユランとミラニアだけだが。 食堂一体が息を殺してしまうような、薄く異様な緊張感が流れる。常人ならばわざわざ近付こうと思わないだろう。「ユラン、席取れたなら呼べ、って……何この面子」 そこに飛び込む、幸運な鈍感さを持った人間もいたらしい。 怪訝な表情をして現れたのは、先日ヴィオレットも対面を果たしたユランの友人であるギアだった。漂う雰囲気のそうだが、一見すると関係性が分かりづらい顔触れに状況がよく分からないといった様子で。 しかし、状況を問いたいのはむしろこちらの方である。「えっと、ギア……それは何?」「何って、俺の昼飯だけど」「そういう事を聞いているのではなくて」