一方の俺は、三日三晩戦っていたという条件こそ同じだが、『魂喰い』によるレベルアップによって三日前とは比較にならない強さを得ている。おまけに俺の魔力けいの源は竜の心臓ドラゴンハート。三日やそこら全力状態を維持したところで湧き出る勁まりょくが尽きることはない。 はじめからゴズたちに勝ちの目などなかったのだ。「ハハハハハハ!!」 超然たる同源存在アニマの力を背景に、ひたすら眼前の敵を斬って斬って斬りまくる。 ほどなく体勢を立て直したベルヒ姉弟も参戦してきたが、それでも俺の優位は動かなかった。 武器としての力もさることながら、魂喰いソウルイーターには復元能力がある。一撃で首を刎はねられでもしないかぎり、たいていの傷は回復できるのだ。俺は余裕をもって二人の攻撃をさばき、散らし、ときには身体で受け止めながら、攻撃をゴズに集中させた。 何度目かの攻撃の際、鋭く踏み込んだ俺の突きがゴズの額を直撃し、ガラスを砕いたような破砕音と共に牛頭の兜がぱっくりと割れた。 額から血を流したゴズの素顔があらわになり、俺は唇の両端を吊りあげる。そして、その表情のまま心装を一閃させ、ゴズの右肘を深々と切り裂いた。 関節部分を断ち切られて神経が傷ついたのだろう、ゴズの右手が力を失ってだらりと下がり、偃月刀が地面に落ちる。その後を追うように、ゴズ自身もがくりと膝をついた。 それでも戦意を喪失したわけではないようで、ゴズは無事な左手を伸ばして落とした武器を拾おうとする。大きく武骨な手が偃月刀の柄をつかんだ直後、俺は鉄靴で相手の手をおもいきり踏みつけた。「ぐぬ……ッ!」「は! 散々否定した相手に膝を屈する気分はどうだ、ゴズ? その様ざまで俺の何を正すつもりだった?」 蒼白な顔で、肩で息をしているゴズをさらに追い詰めるべく、俺は魂喰いソウルイーターの切っ先をゴズの左手にあてがった。 そして、そのまま無造作に突きおろす。刀身で左手と地面を縫いとめられたゴズの口から、たまらず苦悶の声がもれた。「空、貴様ッ!」「お前もいちいち吼えるな、クリムト」 両の足に勁けいをこめて、素早くクリムトと距離をつめる。魂喰いソウルイーターはゴズの手を刺し貫いたまま――つまりは素手の攻撃だったが、手加減する必要がない分、かえってこの方がやりやすい。 最大戦力のゴズがいてさえ三人同時に相手をすることができたのだ。そのゴズを無力化した今、残る二人に脅威を感じるはずがない。 振り下ろされた倶利伽羅くりからの斬撃を左手で受け止める。直後、熱による激痛が脳天を突き刺し、人間の肉が焦げる嫌な臭いが鼻をついた――が、それだけだ。先ほどのゴズの奥伝おうでんの威力とは比べるべくもない。 ひきつるクリムトの顔を間近で観察しながら、俺は相手の隙だらけの腹部に右の拳を突き刺した。これでもかとばかりにたっぷりと勁けいをこめ、短く二度、三度と突き上げるように臓腑ぞうふを抉えぐる。 硬いモノが数本、まとめて砕ける音が耳朶を震わせた。硬いモノを数本、まとめて砕く感触が拳から伝わってきた。「ぐほぁ!?」 唾つばと苦悶と、血と胃液と。いろいろな物を吐き出しながら、クリムトが「く」の字に身体を折る。 素早く相手の腹から拳を引き抜いた俺は、痙攣したように震えているクリムトの背をめがけて思いきり肘を打ち下ろした。「ぐぶッ!?」 勢いよく顔から地面に叩きつけられたクリムトが、自身が吐き出した汚物の上で苦しみ悶もだえている。