穏やかな口調のままベンチの前に回り込むと、二人の間に「よいしょ」と割り込んで座った。腕にはきなこを抱いている。「で、何をしてうちの娘を泣かしたのかな、TRIGGERの八乙女楽くん?」 「えっ・・・あの、普通に話していただけで・・・」 楽だけに向けられた顔は普段のにこやかな表情からは想像がつかないくらいに恐ろしかった。「も、戻ります・・・」 楽は急いで立ち上がってお辞儀をすると、その場を立ち去った。「楽さん!」 「紡、座りなさい」 紡は楽を追いかけようとしたが、音晴に止められてベンチに座り直した。「もう・・・別に何もないってことくらいわかってるくせに」 「いや、わからないよ。何しろ彼はあの八乙女くんの息子だからね」 「何それ・・・本当に何もないから心配しないで!っていうか、楽さんはIDOLiSH7をいつも応援してくれてる素敵な人なんだから!失礼なこと言ったらお父さんでも許さないんだからね!」 紡の攻撃に音晴は怯んだ。「うっ・・・き、君はお父さんより彼を援護するのかい?」 「そういう問題じゃないでしょ!!」 音晴はしゅんと肩を降ろした。「だって・・・彼はかっこいいから・・・お父さん心配になるよ」 「何の心配なのよ。ね、きなこ」 「みゅ、みゅー」 のほほんとしたきなこの顔を撫でると、紡は立ち上がって音晴に向き直った。「私はマネージャーとしてちゃんと仕事をして、他のグループの方とも普通に交流しているだけですっ!公私混同してるのはお父さんのほうだってこと、自覚して!」 「紡・・・いつのまにそんなにしっかりしちゃったんだい・・・」 紡は颯爽とその場を立ち去った。背筋の伸びた後姿を見ながら、音晴はため息をつく。