翌朝。 無事にナシトの都合もついたので、僕ら四人は早速、新たに発生したというダンジョンに向かうことにした。 トスラフさんからの情報では、新しいダンジョンは魔導都市から半日程度の距離しか離れていないらしい。明らかに、近すぎる。もし何か起きて魔物がダンジョンから溢れでもしたら、魔導都市は大変なことになる。だからこそ、トスラフさんはできるだけ早くと僕らに依頼したのだろう。 逆に、半日なので街に補給に戻るのも楽だった。まずは数日潜って様子を見つつ、魔物の種類を見極めてから、一度街に戻ってくるつもりだった。 ナシトも既に僕の家に来ていた。昨日あちこちを駆け回ったおかげで、僕ら四人の準備は万端と言ってもいい状態だった。 食料も、念のためこの間の遠征と同じくらいの量を準備してある。水はいつも通り、ナシトとルシャの魔導頼みでいいだろう。最後にもう一度だけ武具の点検をして、出発するつもりだった。 盾を持ち上げて様々に傾けながら、表面や持ち手に触れて、歪みが無いかを目と感触で確認する。前回の遠征から帰ってからも何度も確かめて、良く磨いていたから、異常無いことは分かっているのだけれど、出発前に点検しないと落ち着かない。これはもう僕の、願掛けというか儀式というか、そういった類の行為に近い。 王都にいた頃に特注で作った盾はいつも通り鈍く輝いていた。僕はもう、戦闘時にこの重みが無いと、違和感さえ感じるようになってしまっている。今では武具さえもたちどころに癒せるルシャがいるから、王都にいた頃ほど神経質になる必要は無いし、無茶もきくけれど、愛着のある武具をつい大事に思ってしまうのは僕だけではないはずだ。 といっても、あまりのんびりしている訳にもいかない。盾を置いて、鎧を着ようと手を伸ばした時、玄関の扉が勢い良く開いた。 振り向くとそこには、まだ昇りかけの朝日を背にした、シエスが立っていた。肩が少し上下している。走ってきたのだろうか。「良かった。まだいた」 そう言うと、シエスはとことこと家の中に入ってきた。 シエスには、今日からまた出かけることは昨晩伝えてある。また長く家を空けてしまうことに対して不満を言われるかと思っていたけれど、特に何も言われなかったのが意外だった。「見送りにきた」 シエスは床に転がしてあった僕の兜を持ち上げて、僕に渡す。兜は、彼女の細腕だと少し辛い重さであるはずなのだけれど、シエスは片手でひょいと胸元まで持ち上げていた。もう、『靭』程度ならほとんど無意識に扱えるくらいの練度に至っているのだろう。本当に、すごい子だと思う。