月雲了が陸と不正に養子縁組をしているとわかって、なんとか調べて海外にいるとわかった。 そこに出入りしている医師になんとか働きかけて、未成年者の頃から誘拐監禁しているという証拠を数年かけて用意した。 そうして、やっと、陸を救い出すことができたのだった。それなのに……医者から天へと告げられたのは、残酷な、陸の今の状態だった。恐らく数年に渡る監禁や暴行で、片足が変形し歩行困難な状態であること。 恐怖やストレスで、子供の頃の幸せな記憶しか残っていないこと…… 治るかどうかわからないが、記憶が戻ったときにどんな精神状態になるかわからないこと……どうして陸の身に、こんなにも辛いことが降り注ぐのか。ぼうっとベッドから外を見る陸を見つめて、天は涙が止まらなかった。天の姿に気付いた陸が、ふんわりと笑った。 「てんにぃ?」陸は天が泣いているのに気づき、目を大きくする。 その姿がまるで子供の頃の陸と重なって、天は思わず駆け寄って陸を抱きしめた。天を抱きしめ返してくれる腕が、まるで幼子がすがり付くような必死さだった。「てんにぃ、どうしたの?いたいの?」 「うん……陸が痛いから、ボクまで痛い…」陸は微笑んだ。「変なの、てんにぃ。りくはどこもいたくないよ?」儚い微笑みだった。 消えてしまいそうで怖くなって、しっかりと腕に力を込めて陸を包み込んだ。「変だよね、ごめん…ボクは陸に会えて、陸とこうしてられて、嬉しいんだよ」 「えへへ…りくもてんにぃにぎゅうってしてもらえて、うれしい!」子供の頃にしたように、痩せた陸の頬を撫でた。 陸がくすぐったそうに頬を寄せてくれる。「陸……帰ろうか?」天の言葉に、陸が はっと 怯えはじめた。「…帰れない、帰る場所がない…」 「陸……」月雲に、そう言われていたのか… 記憶の片鱗がそうさせるかのように、陸は帰れないと呟いて震えている。怯えて震える肩を抱きしめる。落ち着けるように、ゆっくりと撫でてやる。「……陸、帰る場所がないのなら、行く場所を作ろう?」「…いく、場所……?」「そうだよ。帰る場所なんて無くていいんだ。だって陸は、何処にだって行ける。好きなところへ行こう。ボクと一緒に。 ふたりなら、どこだってそこがふたりの家で、居場所になるから 」包み込むように微笑む天の言葉を飲み込むみたいに、長い間じっと天を見つめて。しばらくして、陸はようやく瞳を和らげた。そして、ちいさく、頷いてくれた。