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くま クマ 熊 ベアー 作者:くまなのだ~/くまなの
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59/211
57 クマさん、王都の商業ギルドに行く
部屋に入り、2人っきりになるとフィナが大きなため息を吐いてベッドに座る。
「ユナお姉ちゃん、今日は疲れました」
「大丈夫?」
「大丈夫です。でも、わたしなんかが貴族様の家に泊まってもいいのでしょうか?」
「静かだと思ったらそんなことを考えていたの」
「変なことを口走って、失礼なことをしたら家族に迷惑が掛かりますから」
やっぱり、平民からみた貴族ってそうなんだ。
「それじゃ、護衛も終わったし、宿でも探そうか。その方がフィナも落ち着くでしょう」
「でも、お金が」
「そのぐらい大丈夫よ。フィナはお金のことは気にしないでいいよ」
「でも」
「でもは要らないよ。とにかく明日は宿を探しましょう。だから、今日はもう寝ましょう」
「はい、ユナお姉ちゃんありがとう」
それぞれがベッドに入り今日の疲れを癒すために眠りに就く。
翌朝、起きると手持ち無沙汰のフィナがベッドに座っていた。
「おはよう」
「おはようございます」
「もう、起きていたの」
「はい、いつも通りに目が覚めたんですけど、なにもやることが無くて」
フィナはお母さんが病気のときから朝早く起きて家の仕事をして、ギルドで仕事をしてきたんだ。
朝早く起きるのは習慣になっているのだろう。
「それじゃ、着替えたら食堂に行こうか」
「まだ、早くないですか」
「早かったら、外に出て食べに行けばいいよ。そしたら、そのまま宿を探せばいいし」
「本当に宿を探すんですか。わたしだったら我慢出来ます」
「フィナのためじゃないよ。わたしもこの家は落ち着かないからね」
食堂に行くと誰もいない。
貴族の朝は遅いらしい。
とりあえず、誰かを見つけて外出の許可をもらうために人を探す。
食堂を出て廊下に出ると昨日見たメイドさんがいた。
「これはユナ様、フィナ様、お早いですね」
「おはよう。食事をしたいんだけど、出来るのかな。無理なら外に行こうと思うんだけど」
「いえ、大丈夫です。しばらく食堂でお待ちになってください」
食堂で待っているとエレローラさんが食堂に入ってくる。
「あら、早いのね」
「おはようございます」
「おはよう。もう食事?」
「はい」
「それで、今日はどうするの?」
今日の予定を聞いてくるので素直に話すことにした。
「宿でも探そうかと」
「宿? どうして? 誕生祭が終わるまでここにいていいのよ」
「どうも、わたしみたいな平民には貴族の家は落ちつかないみたいだから」
「でも、無理だと思うわよ。誕生祭のおかげで人が増えているから、宿なんて埋まってると思うわよ」
誕生祭か。
確かに宿は無理か。
なら、少し予定より早いけど、クマ門を設置する家でも探すかな。
「大丈夫です。別案がありますから」
「そう。うちはいつまでもいてもいいのよ。クリフからも言われているし」
朝食を済ましたわたしとフィナが外に出る。
朝食を食べている間に結局ノア、シアの姉妹は起きてくることはなかった。
ノアは久しぶりに遅くまで寝ているのだろう。
旅の間は日の出、出発だったのだから。
王都の中を散歩しながら数軒の宿を回る。
クリモニアの街にいたときは忘れていたが、わたしのクマさんの格好が目を引く。
すれ違う人の目がかならず、わたしの方を見ている。
そして、かならず、『くまだ』『クマ?』『かわいい』『なにあれ』『クマさんだ』
とか声が聞こえてくる。
「フィナ、ごめんね。なんか目立って」
「大丈夫です。慣れてます」
にっこりと慣れてますと言われても嬉しくないだけど。
そんな視線を気にしながら王都を探索する。
エレローラさんの言うとおり、宿はどこも埋まっていた。
次の案を実行するために商業ギルドに向かう。
場所が分からなかったので、最後に聞いた宿屋で商業ギルドの場所を聞き、向かうことにした。
王都の商業ギルドはクリモニアの街に比べると、規模も建物の大きさも違う。
人の出入りが多い。
商業ギルドに入り、受付を探す。
混んでいるな。
でも、受付の数も多い。
えーとどうすればいいんだ。
あたりを見回す。
どうやら、あそこで番号札をもらって、呼ばれたら受け付けに行くみたいだ。
番号札を配っている列に並び、番号札をもらう。
もちろん、並んでいる間もわたしは注目の的だ。
日本で言えばパジャマ姿で並んでいるようなもの。
目立って仕方ない。
貰った番号札は213番。
今呼ばれた番号は178番。
まだ、呼ばれるまで時間がありそうだけど、受付は7つある。
意外と早く呼ばれるかな?
待つこと三十分。わたしたちの番号が呼ばれる。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」
一瞬、わたしの姿を見て笑顔が崩れたけど、すぐに戻したぞ。
さすが、王都の受付嬢。
人を見かけで判断はしなかった。
心の中ではどう思っているか分からないけど。
「王都の中に土地が欲しいんだけど買える?」
「失礼ですか、ギルドカードをお持ちでしょうか」
ギルドカードを渡す。
「少々お待ちください」
ギルドカードを水晶板に置く。
「商業ランクFのユナさんですね」
「ええ」
「ちなみに、土地はどの用途で使用なさるのでしょうか」
「普通に家を建てるんだけど」
「つまり、この王都に住むってことでしょうか」
「それは未定。クリモニアの街だっけ、あそこをメイン拠点にしているから、こっちの王都はサブ拠点に使うつもりだけど」
「わかりました。では、土地について説明をします。まず、城付近の上流地区は貴族街になりますのでお売りすることは出来ません。その次に、中流地区は紹介状が無いとお売りすることは出来ません。ですのでお売り出来るのは下流地区になります」
「・・・・・紹介状?」
ミレーヌさんから貰った紹介状を思い出す。
「これ、紹介状になる?」
「確認させてもらいます」
受付嬢は紹介状を広げて確認する。
「これは・・・・はい、確認させてもらいました」
「どうなの?」
「申し訳ありません。わたしの一存では、少しお待ちになってください」
受付嬢が席を離れて奥にいってしまう。
「ユナお姉ちゃん、土地を買うの?」
「お金はあるから今後のことを考えると便利だからね」
いない間空き家になるが、クマハウスは設定した人物以外はいれないように出来るから問題はない。
「おや、嬢ちゃんじゃないか」
「グランさん? それにエレローラさん? どうしてここに」
振り向いた先にはグランさんとエレローラさんがいた。
「それはこっちのセリフよ。どうして、商業ギルドにユナちゃんがいるの?」
「わたしは家を建てるために土地を購入しようと思ったんだけど、紹介状がないと駄目とかで。とりあえず、クリモニアの街で貰った商業ギルドの紹介状を渡したんだけど、審査待ちかな」
「紹介状? なら、わしが紹介状を書いてやろうか」
「わたしも書いてあげてもいいよ」
「それは助かるけどいいの?」
「おまえさんには命を救われているからのう」
「クリフと娘がお世話になっているからね」
「それで、2人はなんでここにいるの?」
「それわね。ユナちゃんが出て行ったあとに兵士がうちに来たのよ。なんでも昨日捕まえた盗賊の件で、それでユナちゃんがいない事を伝えるとグランの家に行くって言うから付いてきたのよ。それで、なんか、兵舎の方で説明があるから兵舎に来てほしいって言われたの。それで兵舎に向かう予定だったんだけど、グランが商業ギルドに行く予定があるって言い出してね。それで先にここにきたのよ」
「そしたら、嬢ちゃんがいたわけだ」
なるほど、
「それじゃ、わたしも兵舎に行った方がいいの?」
面倒だけど。
「兵士の話を聞く限りではユナちゃんには来て欲しいって言っていたわよ。報奨金とかの話ね」
「報奨金?」
「盗賊を捕まえたときに武器や道具を持っていただろう。それの引渡しだな。全て嬢ちゃんの物になるはずじゃ」
なら、行かないと駄目かな。
臨時収入は嬉しいし。
グランさんたちと話し込んでいると受付嬢が戻ってきた。
「お待たせしました。土地の件ですが、中流地区の下流地区の近くなら可能です」
「どの辺り?」
王都の地図を広げて指をさして教えてくれる。
「なんだ。これじゃ端のほうではないか」
「ほんとうね」
関係ない2人が地図を覗き込んでくる。
「そこの娘。紙を貸せ。わしが紹介状を書いてやる」
「そうね。わたしにも紙を貸しなさい」
「えーと、どちら様でしょうか?」
「グラン・ファーレングラムじゃ 」
「エレローラ・フォシュローゼよ」
「ファーレングラム伯爵とフォシュローゼ伯爵婦人ですか!?」
「そうじゃ、こやつの紹介状が必要ならわしらが書いてやろう。それでもっと良い土地を用意せよ」
「は、はい、すぐに用意してきます」
受付嬢は急いで席を立ち、奥の部屋に駆け出していく。
すると、すぐに年配の女性が出てくる。
「なんだい。ファーレングラム伯爵と言うから若造の方かと思ったらジジィの方か」
「ババァが何言ってやがる」
「それにフォシュローゼの嬢ちゃんか」
「流石に嬢ちゃんって年じゃないんだけど」
「2人してこんな変な格好をした娘の保証人になるのか?」
変な格好って言われた。
「ああ、だから、早くしろ」
「ミレーヌにしろ、なんでこんな小娘の肩を持つのか」
「わしはこの嬢ちゃんに命を救われているからな」
「わたしも娘と夫がお世話になっているからね」
「ふん、そうかい。まあ、よい。おまえさんたちが保証人になるんなら、それなりの土地を用意しよう。それで、小娘、金はあるんだろうな」
「土地がどのくらいするかわからないけど、クリモニアの街の百倍とか言わなければ」
「ふん、冗談もそこまで言えれば凄いの」
別に冗談でもないだけど。
千倍でも可能だ。
「とりあえず、希望はあるか」
「治安が良くて、人通りが少ないところがあれば、さらに贅沢を言えば冒険者ギルドが近いと嬉しい」
「わがままな小娘だな。まあ、良い。それならここだな」
お婆さんが地図の一点を指す。
王都に詳しくないわたしには分からない。
「上流地区の近くか、ここなら治安もいいだろう」
「それに大きな住宅が並んでいるからこの辺に住んでいる人たちぐらいしか通らないから人通りも少ない」
「この大きな道を通れば冒険者ギルドにも近い。嬢ちゃん、ここでいいじゃないか」
「そうね、後は金額しだいね。まあ、足らなかったらわたしが出してあげてもいいわよ」
「そうじゃの、お前さんらの知り合いってことで金額はこのぐらいだの」
提示された金額を見る。
十分に払える金額。
意外と安い。
「少し、高くない? 建物無いんでしょう?」
「馬鹿を言うな。王都でこんな立地条件が良い土地、こんな金額でも安いほうだぞ」
「グランはどう思う?」
「そもそも、嬢ちゃんは払えるのか」
「払えるけど、安い方が嬉しい」
「小娘、本当に払えるのか。お子様のお小遣いで買えるのとは違うんだぞ。貴族でも簡単に出せる金額じゃないぞ」
「別に一括じゃなくてもいいでしょう」
エレローラが助け舟を出してくれる。
「この小娘が貴族の娘や大商人の娘ならいい。違うなら、一括以外認めん」
「一括で払えば売ってくれるの?」
「ああ、カード払いでもいいが、このギルドカードを見る限り、それなりの金額は入っているが土地を買う金額の一割にも届いていない」
「ここに出せばいい?」
「出せる物なら出してもらおうか。出せたら割引を考えてやってもいいぞ」
そう言われたら出すしかない。
クマボックスからお金を出してく。
「ちょ、ちょっとまて」
わたしは、無視して金貨を出していく。
カウンターの上に金貨が山積みになっていく。
「待てと言っている。こんな狭いカウンターに金を出すな」
出せとか出すなとか我侭なお婆ちゃんだ。
「周りが驚くから仕舞え。わしの負けだ。こんなところで大金の取引はできん。別室に行くぞ」
すぐに仕舞ったのでわたしが大金を出したことに気づいた者