「噂によると指示した第二王子は正気ではなくて、王の許可なく杜撰な方法で追放したとか…………影も手配せずポイ捨て状態だったらしい」
「可哀想に。伯爵令嬢なら生粋の淑女だったでしょう。追放されて、庇護もなく生き延びるのは難しいでしょうね」
「だから悲劇の伯爵令嬢って訳さ。しかし王族の醜聞に関わるためか誰もが口を閉ざし、外部の人間には真偽不明だ」
「しかし殿下の話し方だと第二王子の失態は事実なんですね」
ミハエルは肩をすくめた。否定はしないということだった。
セドリックは眉間を指でほぐし、深く椅子に座り直した。エリィが元令嬢という可能性は否定できなかった。しかし違和感も膨らむ。
「ミハエル殿下…………元令嬢は躊躇なく床で食事をとろうとするでしょうか?」
「ありえないな。気高い娘が地べたなど、プライドが許さないだろう」
「でも彼女は残飯を漁っていた経験をしていたから、と平然と教えてくれるんですよ」
「それは強烈なギャップだな…………アビスのスラムはそこまで過酷なのか?嘘ではなくて?」