「場合によってはこの町から回収する余裕が無いかもしれないものね」 下手に等級の高いダンジョンを創ったら、それでこのモークシーの町が大変な事になりかねない。上手くダンジョンを取り込んで迷宮都市としてやって行けるようになるなら良いが……その過程でこの家から近いスラム街の住人は住むところを失いかねないので、それは気の毒だ。 それにダンジョンの魔物を戦力として使わなくてはならない局面になった時点で、町は壊滅状態か、それが避けられない状態に陥っているはずだ。 そうならないためのダンジョンを創るのだから、それでは意味が無い。「まあ、階層を広く作らないといけないのでE級に抑えられるかどうかですね。じゃあ母さん、俺は地下室でダンジョンを創る……前に、ちょっと家の裏手まで行ってきます」「家の裏手に? じゃあ、グファドガーンさんが持ってきてくれた晩御飯が冷めない内に帰ってくるのよ」「はい」久しぶりに人の気配が内部に在り……更に微妙だが異質な存在感を漂わせ始めた家に構わず、犬が一頭飢えていた。 スラム街で生まれたこの犬は兄弟たちと、そして母親を喪いながらも、どうにか成犬になるまで生き延びてきた。しかし最近ライバルや捕食者達との争いに敗れて餌を得られず飢えに苛まれ、いつの間にかこの場所に行きついたのである。 ライバルと捕食者とは、この犬以外の野良犬と……スラムの住人達であった。 スラム街の住人にとって犬は残飯を漁るライバルであると同時に、立派な食料だ。犬が家族と生き別れたのもスラム街の住人達に肉として狩られたからである。 そのため犬はすっかり人間を恐れるようになっていた。元々野良犬だったため、母犬から人間に対する警戒心を持つよう育てられてはいたが、今の犬の目には人間は恐ろしい捕食者にしか見えなかった。 だから人気の無い空き家の裏に居たのだ。このままでは犬は自力で餌を取る事も、人間がいる通りでゴミをあさる事も出来ず、飢えて死んでしまうだろう。「実験台はネズミでも良かったんですけどね、犬でも構わない訳ですからね……おいで」 その前に、音も無くヴァンダルーが現れた。その手には小さな干し肉がある。「っ!? ……グルルル~っ!」