「おつかれさまでした!…うわぁ!」何とか収録を終え、ロケバスで東京へと戻ってきた陸は笑顔でスタッフと挨拶を交わした。 その途中、後ろから腕を思いっきり引かれた。天だ。「七瀬陸。行くよ」 「え、ちょ、ちょっと…」天が営業スマイルを忘れ、陸の手を取り早足で歩いて行く。 そして天は近くに止まっていたタクシーに陸を押し込み、自分も乗り込んだ。 運転手に行き先を伝え、タクシーは走り始めた。 陸は天の方を見るが、天は何も言わなかった。「…運転手さん。ここで良いです」そのまま天が運転手に声をかけるまで、二人は一切言葉を交わさなかった。 天はお金を払うと、陸の手を引いてタクシーを降り、雰囲気の良さそうなカフェに入っていった。 そしてカウンターに居る店主に声をかけて、個室に入っていく。「…ここなら誰にも聞かれないでゆっくり君と話ができる」そう言って天は個室のソファに座る。 それに習って陸もソファに座ったが、陸にもよくわからない状態だった。「ねぇ、七瀬陸。あの歌の話を聞かせてほしい」 「話?」 「うん。…君の両親って、どんな人?」天は真剣な顔をして陸の両親の話を聞いてきた。 しかし陸は何故だか天の必死な様子を見ていたら、不思議と微笑ましくなった。 その表情を読み取った天は、眉間にしわを寄せた。「何?何かおかしい?」 「い、いえ。何だか、九条さんも人間なんだなぁって思って」 「…何それ。当たり前じゃない」陸の目には九条天という人間は完璧なものであるように映っていた。 何でもできて、自分と同い年なのに自分よりも遙かに大人な人間。 でも目の前に居る九条天はまるで自分の知らないことを大人に教えてとせがんでいるような子供に見えた。 天にも年相応な一面があるように感じて、陸は天に親近感を持てた。「…じゃあ、少し話しても良い?俺の小さい頃の話」敬語で話すことをやめ、まるでいたずらに成功した子供のような顔を天に向けると、天は小さく笑って肩をすくめた。 それを見てから陸は目を閉じて、懐かしい記憶を思い起こしはじめた。「俺の両親は、とにかく歌うことが大好きだった。俺は両親が歌っているのをいつも聴いてた。本当に耳にたこができる位同じ曲を聴いたんだ。それが、さっきの歌」 「その歌の作者は、わからないんでしょ?」 「うん、わからない。俺も歌詞をインターネットで検索してみたりいろんな曲を聴き漁ってみたりしたんだけど、やっぱり何もわからなくて。そもそもこの歌は俺の記憶を思い起こして歌ってるだけだから、これが両親が歌っていた曲と同じかって言われると、それすら自信が無い」 「だったら両親に確認すれば良いんじゃないの?」 「……」 「七瀬陸?」