この作品は、近江谷さん演じる正平が、妻を喪い無気力かのようにテレビを見ている場面から始まります。ここで流れるテレビの音が、実は社交ダンスの練習風景の声だったりして、作品の後半の出来事(正平は妻としか社交ダンスを踊ったことがない)とリンクしていたりする演出が細かい。
胸を突かれたのは、その次のシーンで「がんというのは実は良い病気なんです」という音声。曰く「余命○ヶ月と言われれば、その期間で人生を充実させようと思うじゃないですか」という言葉の途中で、正平がテレビの電源を切るんですね。
それを見て、あぁ、ただの無気力じゃないんだと。
妻に何もしてあげられなかったと思って前に進めない人間にとって、そんな発言は、他人事な視点からの無責任な発言でしかないですからね。