「そう言えば、ノエル。真珠、つけてなくない?」「あぁ、そう言えばそうね」 気楽そうな声で、ノエルが答える。 るちあは思わず身震いをした。マーメイドプリンセスにとって、貝殻のネックレスはただのアクセサリーではない。自分たちの力の源であり、海の女神を呼び出す為の、真珠が収められている。命と同じくらい大事な代物だ。その真珠を紛失したのに平然としている今のノエルの姿は、はっきり言って異常だった。<るちあ> 窓際から少女の声が響く。 声が聞こえてきた方向を見ると、星羅のオレンジ真珠が輝いていた。 光の中に映し出された星羅が、真剣な眼差しでるちあを見つめている。<ノエルの真珠は、もうミケルの手に渡っているわ>「星羅!?」<逃げて、3人の真珠の力で、私も、ミケルに……> 不意に言葉がとぎれた。 オレンジ真珠から光が消え、室内に静寂が戻る。「星羅!? どうしたの、星羅!?」 オレンジ真珠に駆け寄り、るちあは星羅に呼びかける。 だが、返事はない。「そう。そう言えば星羅とお話しすることも出来たわね」 背後から声が響く。 ノエルの声だ。「オレンジ真珠も持ち帰れば、蘭花様もお喜びになるわ」 星羅の真珠を胸に抱いて、るちあはノエルに向き直る。 ノエルの口元には、普段通りの笑みが浮かんでいる。 だが、眼が笑っていない。獲物を見るような冷たい目つきでるちあと、彼女がかばったオレンジ真珠を見つめていた。 彼女は敵だ。ノエル本人か、彼女の姿に化けた御使いや水妖かは分からないが、とにかく敵だ。 るちあはすかさず、胸元の真珠に意識を集中。 マーメイドプリンセスのライブ衣装に着替えると、オレンジ真珠を抱いたまま、飛び降りるべく窓に足をかける。 勢いよく窓を開け放とうと窓に向けて手を伸ばし……「きゃあ!」 るちあの手に、鋭い痛みが走った。 思わずバランスを崩し、床に無様にしりもちをつく。 痛みをこらえつつ立ち上がり、改めて窓を見る。 窓が不思議な光で覆われていた。「窓だけじゃないわ」 ノエルに似た女の冷たい声が響く。「この部屋全部が光の檻に閉じこめられているの。真珠の代わりにお借りした、光の玉で作ったのよ」 言いつつノエルが手のひらを見せる。 手のひらには光の玉が……御使い達がミケルや真珠の力を行使する際のエネルギー球が浮かんでいた。 だが、その色は今までにるちあが見てきたものとは違う。 女の手に浮かぶ光の玉はオレンジ色ではなく、北極海のマーメイドプリンセス・ノエルの真珠と同じ色に……藍色に輝いていた。「あなたは誰!?」「あら、お友達の顔忘れちゃった? 私はノエルよ」 ノエルの顔をした女が、るちあが知っているノエルとはかけ離れた冷たい口調で答える。「蘭花様と素敵なことをして、下僕にしてもらったの」 その言葉と共に女の服装が変わる。 マーメイドプリンセスのライブ衣装。 るちあにとって見慣れた装束を身にまとっていることが、目の前の女が「ノエル」である事の何よりの証に思えた