「天にぃの人生の、迷惑になりたくないから…」 天は耐えられなくて、扉を開けた。 陸が急に現れた天を見て、目を大きくする。 「何、それ?陸、どういうつもりなの?」 「天!落ち着けよ」 「答えて。ボクが陸のことを迷惑に感じるって、本当にそう、思ったの?!」 天は気持ちが高ぶって、思わず声が強くなってしまう。陸はうつむいていたけど、ぐっと顔を上げて天をにらんだ。 「…だって、どう考えても邪魔じゃんか!おれは病気ばっかりで…天にぃに迷惑かけてる!」 「それは陸のせいじゃないでしょ?」 「おれのせいだよ!おれのせいで、父さんも死んじゃった!」 「陸…!」陸の大きな瞳から、溢れるようにポロポロと涙が落ちた。 「おれがたくさん迷惑かけちゃったから、父さんが疲れて死んじゃった。おれのせいで、天にぃはもう父さんと会えなくなっちゃった…ごめんね、ごめんなさい…おれなんか…」 「陸………」 うつむく陸を、天はそっと抱き寄せた。 父が亡くなって落ち込んでいるとは思っていたが、まさか自分をそんな風に責めて思い詰めていたなんて。おれのせい、おれなんて、と…そう思わせてしまっていたと知って、恐ろしくなった。 それと同時に、父の葬儀の時の陸の顔を思い出す。自分を責めて、自分に怒って、後悔して、そんな風に自分を苦しめて、今まで過ごしていたのか。それは、なんて悲しくてやるせないのだろう……「陸、それは絶対に違うよ」 「違わないよ!おれといたら、きっと天にぃも疲れちゃうよ。天にぃ死んじゃったらやだもん!絶対にぜったいにやだもん!もうおれは、誰のお荷物にも、足枷にもなりたくない!だから……おれが、いなくなりたい…」 「…陸!!」 思わず怒鳴り付けてしまった。陸がびくっと肩を揺らす。 天はなだめるように、しゃくりあげる小さな背中を撫でた。その陸の背があまりにも頼りなくて、泣けてきそうだった……まだまだ守られる年齢なのだ。親に愛されて包まれていても許される年齢なのに、自分のことをそんな風に思わせてしまうのは、あまりにも苦しい。やさしく抱きしめたまま、小さく震えている陸の耳元でささやく。 「……お荷物なんかじゃないよ。陸はいつだって、家族の、ボクの宝物だよ…足枷なんかでも無いよ、陸がいてくれるから、ボクは頑張れるんだ…」 「天にぃ……」 「陸は、ボクの命綱なんだよ…」陸が手を伸ばして、ボクの頬に触れようとする。 「天にぃ、泣いてるの…?」胸が、心が、苦しかった。 2才の陸が、母に嫌われたから帰ってこないのではと心を痛ませていたのを知っていたのに。ボクは全然わかってなかった。 あの時、母の代わりに惜しみ無い愛を与えたいと決めたのに。ボクとの生活のなかで笑顔を失っていた陸の、本当の苦しみに気づいてあげられなかったことが、たまらなく悔しくて辛かった。「ごめんね…てんにぃ、泣かないで…?」 泣きながら陸が、ボクの頭を撫でてくる。 その手のひらのぎこちなさがあまりにもあたたかくて優しくて。あの時の父の手の記憶と重なってしまって、ボクはまた涙が溢れた。