ぐっと拳を握り締めて、天は思い出す。七瀬天がもういないのと同じように、七瀬天の弟だってもうどこにもいないと、陸は主張してきた。その通りだった。七瀬天の弟で、ただの七瀬陸でしかなかった少年が、IDOLiSH7のセンター・七瀬陸に辿り着くまでに何を思って、どう生きてきたのか。天は何も知らなかった。知らないのに、いつも陸に説教ばかりして、オレは13歳の七瀬陸じゃないと言われても仕方がなかった。「まあ、オレは色々口出しちまう九条の気持ちは分からないでもないけどな」 「え…?」 「お前らのとことは全然状況も環境も違うけどさ、昔は弟のこと、なんでも自分が面倒見て、なんでも自分が一番知ってたはずなのに、気がついたら成長してて。オレなんて、何もかも一織に抜かされちまったし……それでも、やっぱりずっと昔の印象が強くて、構っちゃうんだよな。自分の庇護下に置きたくなるっていうか…」自分の弟のことでも思い出しているのか、三月も少し寂しげに笑う。天は黙り込んだまま立ち上がると、キッチンの方へと近づいていく。砂糖の混ざった甘い匂いが漂ってきて、思わずくんくんと鼻を動かしてしまう。 そんな天の様子を見て、三月はふっと笑う。天もそんな三月の笑顔につられて、小さく笑った。「それで構いすぎちゃって、嫌われちゃうんだよね。こっちは可愛いと思ってるから構ってるのに、なんだか構い方、間違えちゃってね」 「はは、そうそう。まあオレの場合は構いすぎると照れて拗ねられるだけで、逆に一織に色々言われてオレが怒っちゃうことの方が多かったんだけどな…」 「……色々言われるの、嫌?」 「嫌っていうか…やっぱり、他人に指摘されるのとは違うよ。兄弟なんて、自分のこと全部知ってるようで、知らないようで、やっぱり知ってるから、そんな相手に指摘されたら、自分でもどうにかしたいって思ってる部分だったら余計に、かっと頭に血上っちまうというか…」