「よし、クラウ・ソラス、ここまででいい」「ぷい!?」「イシュカに戻れ。間違っても俺を援護しようとか考えるなよ? 助ける余裕もなければ、巻き込まない自信もないからな」「……」「返事!」「ぷぎッ!!」「よろしい」 そんなやり取りを終えた後、俺はクラウ・ソラスの背から地面めがけて飛び降りた。 普通なら助かる高さではないが、勁けいを用いれば何とでもなる。すでに一度、ゴズたちと戦う前に同じことを経験しているからなおさらだ。 ――と、そんなことを考えていたら、こちらを見据えていたヒュドラの目がぎらりと輝いた。 大きく開かれた口が落下する俺に照準を合わせる。 次の瞬間、ヒュドラの口から暗赤色の息吹ブレスが放たれた。色や形状から推おして猛毒の液体だろう。 高圧で放たれた水はそれ自体が高い殺傷力を秘める。岩を砕き、金属を断ち切る水魔法が存在するのがその証拠だ。ヒュドラが放った毒液もこれに等しく、うなりをあげて迫り来る毒液の直撃を受ければ、毒以前にまず水圧で身体が砕け散るに違いなかった。 視界いっぱいにヒュドラの息吹ブレスが迫る。それはあたかも赤い城壁が迫ってくるかのようで、とっさに逃げることもままならない。空中ならなおのことだ。 ――だから、逃げずに迎え撃つことにした。 心装で切り裂いてもよかったが、それよりも試したいことがある。 ゴズとの戦いで知った心装の知識。 心装とは入り口であり、同源存在アニマの力をさらに引き出すための木刀――呼び水である、とかつての傅役もりやくはいっていた。 それは俺にとって思いもかけないことだった。 俺は今日まで、強くなることはすなわち自分のレベルをあげることだと考えていた。だから心装をつかって魔物を倒してきたし、ルナマリアやミロスラフから魂を喰らってきた。 心装の力を今以上に引き出そうとは、たぶん一度も考えていない。 何故といって、俺にとってソウルイーターはこれ以上ない最強の武器だったからである。 最強の武器を手に入れたならば、後は自分のレベル上げに励むだけ。それが俺の強さにつながる。 その考えは決して間違いではなかっただろう。 だが、それだけでは至れない領域があることを俺は知った。 そして、一度気づいてみれば、ヒントはいたるところに転がっていた。 最大のヒントは心装を会得したあの日。蝿の王の巣で腕を喰われ、足を喰われ、顔を喰われた俺が、こうして五体満足で生きていられる理由。 それは同源存在アニマたるソウルイーターの力に他ならない。 復元魔法は蘇生魔法に匹敵する神の御業。聖王国の教皇だけが扱えるという神域の奇跡。 それと同じ現象をソウルイーターはたやすく起こしてのけた。ソウルイーターとはそれだけの力を秘めた同源存在アニマなのだ。