環が呟くように言うなり、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。 「環、そんなこと考えてたのか」 なーんだ、と明るく笑う陸を睨む。「なんだ」じゃない。だって、環が拾ってきた子犬を一度だけ、と抱っこした後、陸は。 陸はお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんじゃない。守らなければいけないのだ。母のように遠くへ行ってしまわないように。 「たーまーきー」 むいっと頬をつねられる。痛くないように優しく。 「じゃあ、環がウサギのことオレに教えてよ」 「え」 「環が教えてくれたら、抱っこできなくても抱っこした気分になれるよ。いっぱい話してくれたら嬉しいな」 「ほんと?」 「ほんとだよ。オレだって可愛いもの好きだもん。ねえ、ウサギってどんなだった?」 陸の陽だまりのような笑顔に、環は目を丸くする。そして躊躇いつつもぽつぽつと話し出した。 「あったかい。そんで、すっげえ速くどきどきしてる。あと、鼻がひくひくしてて……」 「名前はなんていうの?」 「茶色いのが、ココア。白っぽいのがミルクで……」 三月は二人のやりとりを微笑ましく見守っていた。できればこのままにしておいてやりたかったが、心を鬼にして声を掛ける。 「おまえら、学校遅れるぞ!」 「あ!」 「やべー!」 ばたばたと出て行く二人を見送って三月は呟いた。 「アイツ、ああ見えてちゃんと兄ちゃんしてるんだよな」