優しい音色を奏でる薄紅色の唇。 夢の中の男の子も、綺麗な唇だった。名前を呼ばれると温かい気持ちになって、まるでお花畑で日向ぼっこしているような……そんな温かい少年が、今目の前にいる。 目が覚めるとどうしても思い出せなかった少年の名前は、天……。──…てん…てんって書いてある!じゃあてんにぃだ!── ──てんにぃ?なにそれ── ──だってりくのお兄ちゃんでしょ?だからてんにぃ!──「……てん…にぃ…」 「……っ!?」 「てんにぃ……、てんにぃ…っ!」 「陸……っ!りくっ!」 何かを思い出したかのように、陸は顔をくしゃりと歪めながらトウマの背中から飛び出し、天へと手を伸ばした。 そんな陸を駆け寄って抱き締めて、天は目一杯の愛情を込めて名前を呼び続ける。 「陸…!陸……やっと見つけた!会いたかった!ずっと会いたかった!」 「りくも……、てんにぃに…あいたかった!」 離れていた時間を補うようにお互いを抱き締める二人はまるで本物の人間のようで、楽はホッと息を吐くと同時に改めて自分の心に言い聞かせた。ここらからが本番だと。