幼い頃幾度なく経験した感覚がそこにはあった。痛みをもはや感じなくなるほど、身体が麻痺していた。血液が回らなくなっているせいか、思考回路がまともに働かない。走馬燈のように過ぎ去っていく記憶の中で、天の顔が浮かんだ。陸、と手を差し伸べる天に陸はたすけてほしい、と縋るように懇願していた。 「安心するといい、楽にいけるだろうよ」 あざ笑うような男の声が響く。男が暫くして、自分の上から退いたのを確認したがもはや陸には助けを呼ぶことすらできない。声を振り絞ることすら叶わないのだ。目を閉じて、自らの命運を諦めて受け入れよう。 「――こりゃあもうダメだな」 がさり、と草の葉が擦れる音が聞こえた。先ほどとは違う人物らしかった。おい、と声をかけられるも目をあけることすら酷く億劫に感じられた。 「もう虫の息だ。少しすれば人間が見つけるだろうしその前にズラかんねえと、っておい! 天! 何してる……!」 男性の声に対し、誰かの怒声が響き渡る。 ふわりと身体が浮くような感覚に、誰かに身体が持ち上げられたことを知る。 「そいつもう助かんねえだろ、見て分かんねえのか……!」 耳元で誰かが必死に名前を呼んでいた。けれど、それを判別することも難しい。 もしかすれば、心配しにきてくれた一織かもしれない。最後だというのにこんな姿で、ひどく悲しむだろう。できれば第一発見者は彼でないほうがいい。そんなことを思いながら、陸は重い瞼をなんとか持ち上げる。 「――――陸、」