もしかしたら……。 綾香もなんらかの犠牲になっていたのかもしれない。 そう、他の勇者の供物のような役割に。 たとえば、(あの時の、三森君のような……) そんなのはだめだ、と綾香は強く思った。 誰かを切り捨てて得られるものに価値などない。 ベインウルフが、続ける。「けど、シビトが死んじまったから、意に沿わない勇者の力にも頼らざるを得なくなった。ま……シビトが生きてれば、強くなりすぎた勇者の処分を任せられた可能性も高い。対勇者なら、邪王素の負荷もないしわけだし」 大魔帝を倒したあとのこと。 そんなこと、考えてもいなかった。 そのまま普通に元の世界に戻れるのだと思っていた。 いや……約束通りなら、そうなるはずなのだ。 なってもらわなければ、困る。 と、ベインウルフがそこで不可解そうな表情を浮かべた。「で……そのシビトと黒竜騎士団の主戦力を壊滅させたと言われてるアシントとかいう呪術師集団なんだが……依然、行方知れずって話だ。ヴィシスとしては不安の芽を背後に残している感覚だろう。自らが”理外の存在”と呼んだシビトを、呪術とかいうわけのわからん力であっさり殺されちまったんだからな……気になっていないわけがない」 ふん、と鼻を鳴らして綾香を見るベインウルフ。「だから、まあ……一部の勇者は、間接的にシビトたちを殺したアシントに救われたのかもしれないね」 自分に染み渡らせるように、綾香は呟く。「呪術師集団……アシント……」 シビトという人のことは知らない。 面識もない。(でも、ベインさんや女神さまがそこまで特別視するほど強い人だった……) その”人類最強”を倒した呪術師集団……。 そして、(呪術……) 一体、どんな恐ろしい力なのだろうか?「にしても、そのアシントって連中は本当に謎だよ。聞けば、最後に目撃されたモンロイ周辺から綺麗さっぱり痕跡が消えているらしい。仮に、もし魔群帯に入っているにしても……そこに至るまでの目撃情報が、不気味なくらいなさすぎるって話だ。……異常といえば、異常な集団だよ」 ドト棒を咥え直すベインウルフ。