陸の困惑顔を思い浮かべて天はくすりと笑った。 消えてしまった陸の記憶の中に、自分への想いが混ざっていてもいい。二人の在り方は何度でも再構築できる。未来がある限り。 これがドラマであればリテイクと呼ばれてしまうのかもしれないが、ここには脚本家もカメラマンも演出家もいない。 「まるでボクだけに許された、ボクのための幸せなアンコールみたい」 腰かけていたベッドから降りて、出窓に置かれた小さな加湿器の電源を入れる。 天はおやすみと呟いて、寝室の照明を落とした。 広い屋敷に夜の闇と静寂が訪れる。 同じ空の下で生きることができるのなら、どんな場所でも寂しくなんてない。 あの子が笑い、歌う。人々を愛して、人々から愛される。 色鮮やかで美しい、自分が生きる唯一の世界を想いながら、天は穏やかな眠りへと落ちていった。