天の言葉につらい表情を浮かべた陸は、言葉を発せずうつむいてしまった。 その様子を見た天はなにやら複雑な事情があるのかと思い始めた。 でも天はどうしても知りたかった。 聴いただけであんなに心がざわついた曲の正体が。 陸は「ごめん」と呟き、深呼吸をしてから話を続けた。「俺、3歳の時に両親に捨てられてるんだ」 「…え?」 「よく思い出せないんだけど、家族で車に乗ってて俺寝ちゃったんだよ。それで、目が覚めたら孤児院に居て。当然驚いて泣き叫んだよ。お父さん、お母さん、どこーって。でも結局両親は現れなかった」陸の目には涙が溜まっていた。「毎日毎日泣いて、みんなを困らせてた。俺ね、生まれつき体が弱かったから泣くたびに体調崩しちゃって。だから小さい頃はもうほとんど病院暮らしだったよ。きっとね、両親と暮らしているときも周りの人を困らせていたんだと思う。だから、俺なんか居ない方が良いって両親もそう思ったんじゃ無いかなぁ…」耐えきれずに流れ出した涙を見て、天は何を言えば良いのかわからなかった。「施設の人達は、君の家族のこと、調べなかったの…?」考えたあげく、こんな疑問しか出て来なかった自分のボキャブラリーに天は心の中で舌打ちした。 天は産まれてこの方、他人を励ます経験なんてしたことが無かった。 だからこんな時にどんな言葉をかけて良いのかよくわからなかったのだ。「ううん。調べたみたい。俺、捨てられたとき自分の名前は名乗れたみたいだったから、その名前を元に両親を探したみたいなんだけど、見つからなかったんだって」 「見つからない?」 「そう。…結局俺の記憶がおかしいってことで片付いたみたい。俺には元から両親なんて居なかったって。七瀬陸っていう名前は偽名だろう、この子供は頭がおかしくなっているんだって。俺、大人の人がそう言ってたのをたまたま聞いちゃったんだ。そんなことないって言いたかったけど、言えなかった。…ほんとに、その通りかもって思っちゃったんだ。本当は俺に両親なんて居なくて、両親欲しさに俺が作り上げた記憶なのかなって」 「…そんなことないよ」 「え…?」 「そんなことない。君は、両親は居たと思っているんでしょう?なら自分でそれを否定してどうするの。君と両親の思い出を、君自身が否定しないで」 「九条さん…」