私は少し間違った判断をしてしまったようだ。彼女の犬好きは、ひとことで言えたものではなかった。まさか、門の前からこちらまで来るとは、流石に挨拶や触る許可を取るあたり、氷川さんらしいというふうに思うが、触った後の満面の笑みは良くない。(え…氷川さん可愛すぎる……というか心臓がうるさい!)と思うほどには、可愛くそして美しい笑顔だと思った。その笑顔に見とれていたのに、彼女は気付き、「白鷺さん?どうかしましたか?」と聞かれたので直ぐに否定する。こんなこと言えたものではないし、たまたまだろう「いえ、大丈夫です。行きましょう。ついてきて下さい」というと、歩きだした。彼女は私のあとについてきた。私の家は学校から10分程度で着くところにある。そして、彼女は私の家を見て「とても綺麗なお家ですね」と言ってきたので、私は「そ、そんなことありませんよ。どうぞ、入ってください」「お邪魔します。」と、一言挨拶してから家へ入ってくる。私は出かける前に水を入れておいた電気ポットのスイッチを入れ、お湯を沸かす。そして私は、彼女に聞いてみた「氷川さん、紅茶飲めます?」「飲めます。あ、お構いなく。」と言われた。やはり真面目な人なだけあるなと思うが、失礼になってしまうので、「せっかく来てくださったんだもの。何も出さないわけには行かないわ。」と返事をすると、彼女は「そうですか。ではお言葉に甘えさせていただきます。」と丁寧に返してくる。私の家には庭があり、そこにはイスやテーブルなどを揃え、外の景色を楽しむことができる「庭にテラスのようなものもありますけど、どうします?」と誘いをかけると、彼女は頷き「いいわね。外で飲みましょう」と、言ってくれたので、外へ出る扉を開け、外へ出る。氷川さんに話しかけた時のような、過ごしやすい天候で、青空があり、そこを白い雲が少し浮かんでいる程度なので、空も大変綺麗な日だった。そして、私達が着席すると、クッキーが氷川さんの足元に寝転んだ。いくら、人懐っこいとは言え、こんなすぐに溶け込めるとはと驚いた。「ずいぶんと早く溶け込めたようね。」と言うと、彼女は「そうですね。このまま連れて帰っちゃおうかしら」と言い出した。私はとっさに「だ、ダメよ!そんなに好きなら、飼えばいいじゃない」と言うと彼女は少し哀しそうな顔をして、「昔、両親に相談したことあったんですけど、世話が大変だと言われて、反対されてしまったことがありまして……」と言っていた。よほど飼いたかったのだろうが、私たちはまだ親に助けてもらいながら、生きている立場上、そんな簡単に飼えるわけがなかった。そして私は、少し詫びも込めて「そうだったの…なら、会いたくなったらうちに来なさい。言っておくけれど、ちゃんと連絡してから来てね」と言った。すると哀しそうな顔は消え、笑顔が広がる。「もちろんです!よろしくお願いします白鷺さん。」と言われる。しかし、苗字で呼ばれたことが少し悲しかったので、意地悪をした。「あら?もうお友達なのに、苗字で呼ぶのかしら?紗夜?」と言うと、驚きを隠せていないようで「な、なれてなくて…」と返す。しかしそこでひいてはダメだと思い、さらに追い討ちをかける。「名前で呼ばないと、クッキーに会わせないわよ」と、クッキーを引き合いに出すと、彼女も諦めたようで、少し照れながら、「わ、わかったわよ……千聖」と言うと、私の心臓は脈をたくさん打っていた。(ちょ……誰よこの人。可愛すぎて、心臓破裂するわ。)と思いながら、私は彼女と紅茶を楽しみつつ、彼女はクッキーと戯れた。そこで私は気づかなかった。私が紗夜に対して恋心を抱いていることを。