「……さっきからずっと、この調子よ。私の声なんて、聞こえてもいないわ」「恐らくは、極度の死の恐怖に晒されたためだろう。心の歪みは、魔導でもルシャの力でも癒せない」 ルルエファルネの嘆きに、ナシトが答える。「……森に帰れば、癒せるかもしれない。でも……」 そうつぶやいて、ルルエファルネも黙り込んでしまった。ナタの様子は気になるけれど、僕たちとの戦闘で自失してしまったなら、その元凶である僕らが何かすべきとも思えない。今の彼女から何か有益な情報が得られるとも思えなかった。 とにかく、今はここから離れるべきだろう。『蒼の旅団』とこれ以上同じ場所にいたくはなかった。一度敵とみなした以上、僕は神経を尖らせて彼らの一挙手一投足に警戒していて、気が休まらない。 おかしくなったナタはルルエファルネに任せて、二人と近くに転がしてあった他の男二人をソルディグへ返還した。四人の後ろ手に施した拘束は、僕らが島にいる間は外さないことをソルディグも了承した。 島からは、僕らと『詩と良酒』、それとログネダさんで先に抜けることになった。ソルディグたち『蒼の旅団』は時間を置いてから島を抜ける。簡単な取り決めを僕とソルディグの間で交わして、すぐに島を出るべく、島の入り口に繋がる森へ足を向ける。「ロジオン。武運を祈る。次は、『果て』で会おう」 去り際に聞こえたソルディグの言葉に、一瞥だけ返す。彼の眼は普段通り、強烈な意思の強さに輝いていて、その奥の感情も何も見通せなかった。 それから、ユーリとすれ違う。ユーリはあれからずっと俯いたままだった。すれ違いざまに小さく、つぶやく声が聞こえた気がした。「……私は、どうしたらいいの。ロージャ。……ソルディグ」 何も返さない。君は、その問いを僕にも課した。僕は君と別れてからどうすればいいのか、君への想いをどうすべきなのか、分からなかった。今度は、君が答えを見つける番だ。そう信じる。 そのまま、森の方へと踏み出して、『蒼の旅団』と別れた。