昔ある村に年とった百姓があって、美しい一人の娘を持っていました。田植えの頃に苗代を見回っていると、蛇が小さな蛙を追いかけて、苗代を荒らしております。
蛇よそう追うな、俺の一人娘をお前にやるからと言いますと、蛇は追うのを止めておとなしく帰って行きました。そうしてその晩から、立派な若い聟が娘のところへ夜遅く来て朝早く帰るようになりました。それがどういう人かよくわからぬので、爺は気にかけていましたが、ある日、家の前を一人の見たことのない易者が通って行くので、それを呼び込んで、占いをしてもらいました。その易者が言うには、この娘はただの人間でない者を婿に取って、人間でない者の子を持っているから、近いうちに死ぬかもしれない。けれども助かる方法がたった一つある。裏の山の大木の上に、鷲が巣をかけて今卵を三つ産んでいる。あれを婿殿に頼んで取って来てもらって、食べさせて見たらよかろうと言いました。そこでその晩に来た婿に鷲の卵が食べたいという話をしますと、快く承知をして取りに登ってくれましたが、その時はちゃんと蛇の姿をしていたそうであります。そうして二つの卵を口にくわえて来て、三つ目を取りに登ったときに、鷲の親はその大蛇をつついて殺してしまいました。爺は家に帰って見ると、昨日の易者がまた来ていて、この話を聴いて、それではもう娘さんは助かった。この後では三月三日の節供に、酒の中へ桃の花を浮かせてお飲ませなさい。そうすれば愈々丈夫になります。私はあなたに命を助けられた、小さな蛙の御恩返しと言って、ぴょんぴょんと何処かへ飛んで行きました。それから以来は三月三日に、人が桃の酒を飲むようになったのだそうであります。