「とりあえずお茶にしよう」「……お父さんがそうするなら」「だから俺はお父さんじゃないって……。まぁ今は置いといて、手を洗いに行こう。着替えも用意するよ」 おいで、とアディが燕尾服越しに少女の肩をさする。 それに対して少女は燕尾服の隙間から顔を出し、コクリと一度頷いて返した。 二人のやりとりを見ていたアリシアがパァっと顔色を明るくさせ、「では行きましょう!」と先陣を切るように歩き出す。「アリシアちゃんも手を洗いに行くの?」「庭いじりをしていたので、まだ手が汚れてるんです。私も手を洗わなきゃ。それに洋服も汚れてるし。あ、私の着替えは用意しなくて大丈夫ですよ!」「……そうだね。アリシアちゃんはいつの間にかうちの屋敷に着替えを常備してるもんね」 気付けば常備されていたアリシアの着替えセットを思い浮かべ、アディが呆れを込めた視線でアリシアを見つめる。もっとも、それに対してアリシアが己を省みるわけがなく、「庭師に着替えは必要です!」と無邪気に笑うだけだ。 そんなアリシアとアディ、そしてアディにくっついたままの少女が部屋を去り、パタンと扉が閉められた。