エグい(かっこいい)感じのが良かったのに……。 それを上司のおっさんに言ったら宇宙線が――。気密が――。冷却装置が――。と、イミぷーなことずっと説教してきてテンションがさがってしまったことがある。 それでもこのごわごわした宇宙服を着ているのはこれを着ないとバイトがクビになる上に違約金を支払うことになるからだ。 マジブラックすぎ。あ、だからおっさんがうざいのか。『とにかくだ。これより船外ミッションという名の撮影だ。PR用の映像撮るぞ』「えー。もう少しいいじゃん。地球見させてよ。地球は――。なんだっけ? 丸かった? そういうの言わせてよ」『こっちは時間が押してるんだ! 酸素も限られてるし、帰還シークエンスまで時間は有限で――』「もううざいんですけど!」 怒りに身を任せてドンっと分厚いグローブに包まれた手が宇宙船の扉を叩く。すると反動で体がふわぁっと動き出し、船外に飛び出してしまう。「わわ!? 体が止まらない……!?」『当たり前だ。重力がないからそんなことをすれば慣性で動いてしまうってレクチャーしただろ。それよりセイフティ・テザー(安全索)を引いて船内に戻れ』 ヘルメットに取り付けられたカメラの画像を見たおっさの言葉に従い、腰に取り付けられた紐を引っ張ろうとするが、そういえば私、そんなのつけてたっけ?「え? うそ……!?」 指先が宙を彷徨う。 首を回して紐を見ようとするがヘルメットの中から下部は死角になっていて見る事が出来ない。体をぐるんと回そうとするが足場がないせいで方向転換できない。 闇雲に手を動かしても何もつかめず、徐々に宇宙船から離れ出してしまった。『――!? 宇宙船のどこかを掴め!』 急いで手を伸ばして宇宙船を掴もうとするが、手は空を切る。「え……?」 体は完全に宇宙へと投げ出され、だんだん宇宙船が遠ざかって行く。「ち、ちょっと!!」 クロールするように手足を動かすも体は勝手に流れていくばかり。冷や汗が頬を伝い、それを縫おうとするも厚手のグローブがヘルメットにこつんとあたるだけだ。『おい、三森! みも……』「ちょ!? おっさん!? おっさん!! ねぇ! ちょっとってば!! 聞こえてるんでしょ!?」 だがスピーカーの奥からはザーというノイズが響くだけで地上と交信できなくなってしまった。「そんな!?」 暗い宇宙空間の中、私は宇宙服という小さな世界に取り残され、一人ぼっちになってしまった。「はぁはぁ……。息が、出来ない……、はぁはぁ、んッ、はあはあ」 そして私の体を宇宙の過酷な環境から守ってくれていた宇宙服に限界が訪れた。 バイザーには赤く“低酸素状態”と警告が灯っている。「やだ……。しにたく、ない。はあはあ」 身が凍るような震えと共に股から熱い液体が漏れだす。ダサすぎて本当はつけたくもなかった採尿パッド――おむつにそれが染み込むのを感じ、こんな状態誰にも言えないと顔が赤くなる。 高校生になってお漏らししちゃうなんてありえない。 早く家に帰りたい。帰ってお風呂に入って友達とラインして――。 だがそれらは永遠に叶いそうにない。 浮かんだ涙が瞼を離れると水滴となってヘルメットの中を漂う。いや、涙だけではない。汗も唾液も水滴となって浮遊している。 懸命に息を吸い、少しでも酸素を得ようと貪るがなんの効果も無い。「やば……た、に……えん」 『ピー』と酸素が切れたアラームがヘルメット内に響く。だがそれを聞く者は誰もいなかった。