芯がしっかりしてブレないしなやかさが、彼にはあった。今日ずっと一緒にいて、石田はそれを感じないではいられなかった。 だからこそ、わかるような気がした。あの『MASAKI』が大事に懐に抱え込んでいる 理由が。フルネームで名乗ったときの威圧感とは違う、石田が尚人の仕事ぶりを伝えたとき のあの柔らかな表情がすべてを物語っているような気がした。 ちょっと、マジで驚いた。......というのが石田の本音である。 クール・ビューティーを通り越してアイス・ノーブルと呼ばれるカリスマによもやあんな 顔ができるなんて、正直、思わなかった。それもまた、イメージの刷り込みという先入観な のかもしれない。決して営業用ではない、想いのこもったもの柔らかな眼差し。 なまじ『MASAKI』というカリスマ性を知っているだけに、それはある種の衝撃でもあった。 (まぁ、正月早々思わぬ眼福だったということですかね) 言ってみれば、それに尽きるのかもしれない。 と―そのとき。上着のポケットに入れておいたスマホが鳴った。 取り出して着信表示を見てみると、加々美であった。まったく、どういうタイミングなのだろうと思うと、口元が妙に引き攣れた。 まずは、ひとつ深呼吸をして。平常心......と唱える。 「......はい。石田でございます」 平常心。 『あー、俺だけど』 「お世話になっております」......平常心。 『さすがにもう終わった頃じゃないかと思って電話してみたんだけど』 「おかげさまで、無事終了いたしました」... ...平常心。 『そうか。よかった。......で? どうだった?』どこかノーテンキな加々美の無駄に艶のある美声に、石田は、どこかで何かがプチッとキ レる音を聴いた。 「どうだった......じゃありませんよ。篠宮君が『MASAKI』さんの弟だってこと、どう して教えてくれなかったんですかぁッ」 通常モードを吹っ飛ばして、石田は声を張り上げる。その剣幕に押されたのか。『.........』加々美が黙り込む。 一秒、二秒、三秒......。たっぷり十秒くらいの間を空けて。 『そりゃあ、いろいろ面倒くさいからだろ』そんなふうに開き直られて、石田はガックリと脱力する。ついでのオマケで偏頭痛までし てきそうだった。 『ていうか、なんでバレた?もしかして、尚人君が?』 「違います。さっき、スタジオ前で鉢合わせしたんです」 『......雅紀と?』 「そうです。『MASAKI』さんと、です。おかげで、ものすごい間抜け面を曝してしま ったじゃないですか。ほんとにもう、失態もいいところです」