「明日、ここに来ます」 兄に向ってそう言った時、兄は黙ったままだった。でも、布団の中で兄の手が俺の手を動かし、互いの指が交差するように組み合わせ、一際密着するときつい程に握りしめてきた。 俺は痛いとも思わなかった。兄の身体や精神は良いものと悪いものに分けられていて、兄はそれを同時に抱えていられるのだと思った。兄の良い身体はその手以外、布団の上で清潔に横たわっていて、まるで朝まで身動き一つ取らないかのように固まり、凍っている。手と顔だけが俺の方を向き、悪い精神と関心と欲がその一つに集められて俺の手を握りしめていた。 俺は兄の顔を覗きながら身体が余す所なく熱くなって、翌朝目を開けた時、どんな事を考えていても構わなかった。