「……さあ、どうしてだろう…」 「天にぃ…」 「父さんと母さんのことも、陸のことも、好きだよ。好きだからこそ、七瀬家への未練を断ち切るために、日記は置いていったんだ。でも……このプレゼントを交換し合った頃、ボクたちはたくさんの約束をしたよね。海に行こう、また川辺で歌を歌おう、旅行に行こう……それを何一つ守れないボクのことを、忘れてほしかったからかもしれない。だから、キーホルダーは持っていった」天の言葉に、ぐっと陸は唇を結んだ。これ以上涙が零れないように、耐えるように、天の背中に回した腕に力を込めた。「天にぃ…もう、もういいんだよ。約束も、何もかも、もういい。ただ、……必要以上に、オレがやることを、否定しないで。分かってるんだよ、オレ。優しい天にぃは、まだオレのこと好きだよって言ってくれる天にぃは、オレを叱る度に、オレよりも傷ついてるんだってこと。ちゃんと、分かってるんだ。この前だってそう。オレを責めて、一織を責めて、そんな天にぃが一番傷ついてた。オレの5年間を知って、少しはオレのこと認めてくれたなら…もう、必要以上に自分を傷つけないで」 「陸…」 「天にぃの言うこと聞けないよ。アイドルやめてなんてあげられない。そこだけは譲れない。天にぃも、天にぃの気持ちも、願いも、夢も、譲らなくていい。オレ達、双子で、兄弟で、生まれた時からずっと一緒だったけど……違う人間だから。それで、いいんだよ。だから、それでいいから、必要以上にオレを傷つけて、自分を傷つけようとしないで、ね、天にぃ、お願い」陸の願いに、天は喉の奥がつんとした。それを誤魔化すように、弟の柔らかな赤い髪をそっと撫でる。何もかも、陸に見透かされていた。陸を心配して、陸に苦しんでほしくなくて。ただ、陸をこの苦しい場所に引き込んでしまったのも、陸の苦しみの原因も、何もかも自分だと思っていて。だからこそ、陸に必要以上に冷たく、厳しく接してしまう。陸はそれを、自分が優しいからだという。陸にそんなことをしてしまう自分を罰するために、そんなことをしているのだという。そして、それをやめてくれと陸は願う。天は鼻を啜った。涙がさっきから、耐えきれずにぼろぼろと零れ落ちている。 陸は自分がいない5年間、苦しんで、その思いを日記にぶつけて、時に両親にぶつけて、自分にぶつけて。それでも、天を思って、天を追いかけると決めて。こんなに大きくなった弟を前にして、自分はどう成長出来ているのだろう。