両親の経営しているお店が傾き、家計は火の車と化していった。陸のお見舞いに行ける回数も前より減ってしまい、ボクは堪らず1人で陸の病院にお見舞いに行く事が多くなった。両親が来る頻度が減り、ボクしかお見舞いに来ないのを陸は不思議に思っているだろう。陸を淋しがらせてはいけない。ボクだけは陸のそばにいなくちゃ!両親が来れない分、ボクは陸のそばに居ようと、1人で来る事が多くなる。いつものように陸に歌を聞かせてあげていた。 陸はあまり体調が良くなくて一緒に歌えないから、ボクの歌声だけが病室に響いていた。陸がパチパチパチと拍手をする。それに合わせてパチパチと拍手の音が聞こえた。「こんにちは。」「あ、この前のおじさんだ!天にぃの歌を聴きに来たの?」ボクはペコリと挨拶をした。「相変わらず、良い声をしている。陸くんの歌声を聴けなくて今日は残念だけどね。」「陸は今、体調が優れないんです。」「そうか。それは残念だ。」残念だと言いながら、顔は笑っている気がした。「元気になったら歌ってあげるから!おじさん、また聴きに来て!」「ありがとう、陸くん。そして、天くん。また会える時を楽しみにしているよ。」おじさんは、愉しそうな笑みを浮かべながら病室を後にする。何だろう、嫌な予感がする。その予感は予感では無くなってしまった。何度目かの陸のお見舞いの帰り道、ボクはおじさんと遭遇した。「天くん、今から帰りなのかい?」「はい。」「そうか。じゃあ、一緒に帰ろうか?」「おじさんのお家は何処なんですか?」「家に帰るのではないよ。行き先が君と同じところだから。」おじさんの言っている意味が分からなかった。 ボクは家路へと急いだ。