天の瞳は、燃え上がる怒りで、揺らめいて見えた。そして天は優しくもう片方の手を伸ばして、点滴を抜かれて血が伝っている陸の腕へと、そっと添わせた。「…きみが、こんな風にむしりとった点滴も、 今の陸にとっては、大切な薬なんだ。……こんな風に流していい血は、陸には、一滴だって、無い…!」天のあまりの気迫に、陸の中の女がたじろぐのが、見てとれた。「…陸の顔も、体も、心も…… きみが傷つけていいはずが、無いんだ… 陸…… ねえ陸、聞こえてるでしょ……? 大切だよ……キミのことが、心から……だから、ねえ、かえっておいで…! …りく、 陸……!!! 」「…て……」──陸の瞳が、変わった。すうっと透き通るような瞳の輝きが……天の目の前に、現れた。ボクの好きな、昔から大好きな、 朝焼けの、いろ……「てん、にぃ……」「りく……!」天は陸を、ぎゅうっと、ちからの限り優しく、抱きしめた。「りく、陸りく、りく……」 「…てんにぃ」涙で揺れる陸の瞳を見つめて、その柔らかい頬を、両手で包み込んだ。陸の瞳に映った自分の瞳から涙が溢れているのを見て、はじめて自分が泣いているのだと知った。「ねえ、はなしたいことがあるんだ。 たくさん。陸に伝えたいことが、いっぱい…… でも、その前に、 」泣きながら、それでも嬉しくて…陸がここにいてくれて、陸がボクの手の中で微笑んでいるから、だから……もう、ごちゃごちゃ考えるのも、後悔するのも、全部ぜんぶやめた。だって、こんなにも好きで愛しくて幸せを与えてくれる存在は、世界中探したって、絶対にどこにも見つれられやしないから……「 おかえり、ぼくの大切な、陸 …… 」