ビルカイン達はダンジョンそのものを壊す事は出来なかったが、ヴァンダルーが使った砲台型や砲弾型使い魔王は、それぞれ使い捨てだ。砲弾型は爆発するから当然だが、砲台型使い魔王も弾を発射するのとその際の衝撃で、魔力を使い果たして壊れてしまうためだ。 それにその爆発で起きる煙や煤で、ダンジョン内の建造物が黒く汚れてしまう。汚れた程度ではこのダンジョンの性能に差は無い。しかし、このダンジョンに誘い込んだ敵には暫くの間は本物の町だと誤解してもらった方がやり易い。 次に使う時も、ビルカインと戦った時のように、動揺している間に一撃を浴びせて仲間と分断し、各個撃破出来るかもしれない。 だから清掃も、爆発で付いた煤を落しても本物の町よりもきれいにならないようにしないといけないのだ。「それは分かりますけれど……雪と寒さはどうにかなりませんの?」「無理です」 変身杖を発動してボディースーツ姿になっているタレアに、グファドガーンは首を横に振って応えた。「このダンジョンは、本物のモークシーと同じ気象と気温になるように設定している。本物の町で雪が降れば雪が、雨が降れば雨が降る」「それは聞きましたわ、ですけど敵が来ない間だけでもどうにかなりませんの?」「出来なくはない。だが、このダンジョンの階層は平均的な階層の倍以上の広さがある。もしダンジョンを適温にしてしまったら、気温や気象を元通りにするのに一日以上かかってしまう。 なので、暖房はそれぞれ工夫をしてもらいたい」「確かに、町一つ温めたり冷やしたりするのは大変ですわね。仕方ありませんわ、ヴァン様で暖を取る事にしましょう」「変身装具を発動していれば、これぐらいの寒さはどうにかなるはずだが?」 そうタレアに声をかけるバスディア。見かけはミニスカートやボディースーツ状で、とても寒そうに見える変身装具だが防寒性能も付与されている。 実際、変身しているタレアには真冬の雪空でも「やや寒い」と感じても凍える程の冷気は感じられない。「心の暖の問題ですわ。あなたもお母さん達と一緒に後輩の指導に当たって来たらどうなの?」「私は良いんだ、もう今日の分のレッスンは済ませたからな。ユリアーナ達の指導は、母さんとカナコに任せる」「……よし、これで大丈夫。タレア、あなたも知っての通り俺は体温が低いので、暖は取れないと思いますよ」 それまで砲弾型使い魔王を作り出し、自走砲台型使い魔王に装填する作業をしていたヴァンダルーはそうタレアに答えた。