文化祭が無事に終わり、私のやらなければならない仕事も17:30には終わった。生徒会室で少しの休憩を取り、屋上に17:50には着けるようにした。私は最初に予定していた時間通りに屋上に着いた。しかし彼女は居なかった。彼女が来たのは17:55。私の予想通りだった。「遅れてしまってごめんなさい。待ったかしら?」と謝っていたが、それは少しおかしかった。「貴女も時間前に来てるじゃない。遅刻はしてないでしょう?何も謝ることはないわ。」と、普通のことを伝える。すると彼女は一瞬、目を見開いたもののすぐに、クスクスと笑った。「貴女らしいわね。」と、笑顔で言う彼女が眩しすぎたので、目を逸らしつつ、少しのつっけんどんに「それで、要件は何かしら?」と聞いた。すると彼女は笑顔を消し、真面目な表情を見せた。それと同時に曲が流れ始める。私は不思議に思った。「後夜祭の時に曲が流れるなんて聞いてないのだけれど?」と彼女が分かるはずもないのに、言葉に出してしまった。すると彼女は「紗夜さんが居ないのを見計らって、提出しましたからね。」と言うのだ。なるほど確かに、それなら辻褄が合う。だけど、根本の謎は解決されていない。「なぜです?」と聞くと、彼女は手を差し伸べ、「私と一曲踊っていただけません?」といってくるのだ。その表情は、舞踏会に来たお嬢様そのものだ。「私踊れませんが?」と、聞いてみる。すると彼女の返答は意外や意外、「私も踊れませんから大丈夫です。雰囲気だけでも味わいたいのです。」と言う。彼女と廊下ですれ違うたびに、後ろを振り向いてしまうほどには、彼女の美しさに見惚れるくらいの私だ。そんな誘い断れるはずもなく、手を取った。「拙いですが、私でよければ。」アニメーション映画や洋画などで良くあるような、リズムや踊りを真似して踊ってみる。最初は合わなかったが、段々とリズムをつかめるようになった。私も彼女も楽器を弾く身。慣れるのは早かった。曲に耳を傾けるくらいには踊れるようになった時、私はふと疑問に思った。「こんな曲知らないわね。」と聞くと彼女は、すこし自嘲するかのように「私も知らないわ。けれど、白金さんに聞いてみたのよ。そうしたらとあるアニメのBGMで、それを少し長くしてもらったわ。」と言っていた。なるほど、確かに白金さんは、知識に長けているし、曲を延ばしたり、縮めたりするのは容易だろう。「なるほど。」と返事を返したあと、私達は踊りに集中した。私たちが踊っている屋上には、秋の風が穏やかに吹いていた。金木犀の香りもその風に乗ってきたようだ。私はさながら、秋の山の中で踊っているような錯覚に陥った。時々回転することがあった。その際に彼女から弾けて言った透明の花びらは、汗か涙か分からなかった。10分ほど踊ると曲は止まり、彼女は私から離れた。「どうかしましたか?」と聞くと、彼女は私に背を向け、「もうそろそろ、魔法が解けてしまうわ。高校生の白鷺千聖として居られる時間を作ってくれた魔法が。私は明日からまた、演技をする白鷺千聖に戻ってしまうわ。また閉じ込められてしまうのよ。」と涙を堪えながら、そうポツリポツリと呟く。私は帰ろうとする彼女の腕を掴み、「貴女の魔法が解けてしまっても、私は必ず貴女を探し出すわ。絶対に。私が見つけたら、その時はまた踊ってくださいね?」と言うと、彼女は涙を流しつつ笑顔でこちらに振り返り「ええ……もちろん」と言い、また私に背を向けて、屋上を去っていった。