『きゃあぁぁーー!!』 『天くーん!!』「皆さんこんばんは!TRIGGERの九条天です!歓声が大きくてビックリしちゃった。今日は一緒に盛り上がろうね!」 テレビ局内での収録でもその場所にファンはいる。テレビの向こう側にも。 今日は七瀬陸ではなく、七瀬天でもなく、九条天としてここに立つ。───りく、いつかてんにぃみたいになりたいなぁ!─── そんな子供の頃のささやかな願いがまさかこんな風に叶うとは…。 もしかしたら神様の悪戯か、ご褒美か。 子供ながらに理解していた。天のようになりたいと願っても、実際に天のようにはなれない。 欠陥だらけの自分には夢のまた夢。 陸とは違い完璧な兄。到底及ぶ事の出来ない大きく輝く兄の背中。 病院のベッドから動けない自分の為に歌い踊ってくれた双子の兄を、今日自分が完璧に演じなければならない。 あの頃、一度だって陸を失望させたことが無かった天のように、今日ここでファンを失望させ九条天の名前を汚してはいけない。「じゃあみんな!ボク達の歌を聞いて!行くよ!楽、龍!」 輝くスポットライトに熱狂する観客。 今は七瀬陸ではなく、九条天だ。 伸びやかに拡がる歌声。軽々踏めるステップ。 アピールする観客にファンサを飛ばし、ニコニコと笑顔で夢を撒き散らす。 今まで自分がしたくても望んでも出来なかった事を、ここで体感する。───羨ましい──── 一瞬、そんな気持ちに包まれた。 それは渇望か、嫉妬か、欲望か、憧景か…… そのどれもかもしれないし、どれも違うかもしれない。 ただ、純粋に思ってしまったのだ。───このまま…───